15年ほど前、日本に「超発明術」と銘打って紹介されたTRIZですが、残念ながら現在の研究開発の現場で広く使われている様子はありません。 当時、創造的な集団思考を推進するための「ブレーンストーミング」という心理学的な手法しか知らなかった研究者や技術者は、「誰でも簡単に発明できる手法が世の中にあるのか?」と、さぞかし驚いたことでしょう。
TRIZは、未だ誰も解いたことのない矛盾を含む技術的問題(これを、発明的問題という。)を解くために開発された理論と方法論ですので、発明を生み出すための手法であるという表現自体は間違いではありません。
発明家エジソンが「創造とは1%のインスピレーション(ひらめき)と99%のパースピレーション(汗をかくこと)である」といったように、創造の元になる革新的なアイデアを発想することと、そのアイデアを実現するための具体化の作業のいずれもが重要で大変な労力を要するものであることは、研究開発に従事する者であれば骨身に沁みて感じていることです。
それゆえ、受け取る側が勝手に「誰でも簡単にできる」方法を期待してしまったことが、そもそもの問題だったように思います。 TRIZは、発明的問題を解くために、あれやこれやと繰り返し考え続けるための方法論を提供するものです。
したがって、TRIZの方法論の訓練を続けることで、繰り返し考え続ける習慣が身につき、結果的に発明的問題を解決することができるようになる、というのが正しい理解でしょう。 こう考えると、日本の研究開発の一部の現場で、単に「40の発明原理」(技術的矛盾の解を得るためのヒント)だけで発明的問題を解こうとしている試みは、TRIZの本来の考え方から逸脱しているように思えます。
その結果、「TRIZは役に立たない」といった誤解が生まれ、研究開発の現場でTRIZが使われていないという状況を生み出しているのではないでしょうか。 TRIZを創案したアルトシュラーは、その晩年に「発明原理」とそれを使うための「矛盾表」は古びたものとみなしていたといわれています。
TRIZを研究開発の現場で活用するには、韓国で行われているように、TRIZを使って繰り返し考え続ける訓練が必要なのではないでしょうか。