戦略と予測

2年前にあるコンサルタント会社から中小企業を対象とした知財戦略のコンサルの依頼を受けて、実際にある会社の知財コンサルを実施したことがあります。その経験を活かし、先週末、知財戦略についての公開セミナーで講演を行いました。

知財コンサルについては、公開セミナー以外でもいろいろな会社でお話しをさせていただいていますが、「どこへ行っても一緒」ということがあります。 それは、「知財戦略が知的財産管理をうまくやるための計画である」と勘違いしている点です。

知財戦略の領域をあまりにも狭く見ていることに驚かされます。 なぜ、そのようなことがわかるかというと、「御社の企業理念を教えください。」との私の質問に対して、「弊社の企業理念は『○○○○○』です。」という答えが帰って来ることがないからです。

実は、知財戦略は、「企業理念(ミッション)」→「経営ビジョン」→「経営戦略」→「中・長期経営計画」→「研究開発戦略」→「知財戦略」→「知財戦術(計画)」というように、企業経営の流れの中に位置づけられるものです。 物事には流れがあって、上流が下流よりも優先されるため、上流を下流の前提と考えることが必要になります。 企業理念といえば、たとえば「快適な車社会を実現します」というようなもので、その会社は「車に関する仕事をする」ことを社会に約束したことになります。

経営ビジョンとは、企業理念を前提として、それを具体化するために経営者が将来企業がどのような姿になるかを示した「見通し(予測)」のことです。 経営戦略は、経営ビジョンを実現するための基本的な方向を定めたものです。

したがって、知財戦略を立案するのであれば、当然に、上流の企業理念、経営ビジョン、経営戦略や研究開発戦略のすべてを前提として、これらに反することなく、その流れに沿った形で作らなければなりません。 しかしながら、実際には、すぐ上流の研究開発戦略どころか、経営戦略、経営ビジョン、企業理念には無関心といった状況です。

これでは、知財戦略を立案する際の予測の確度など信頼できるものではありません。したがって、できあがった知財戦略がうまく行くはずがありません。知財戦略は企業にとっては経営の手段の一つでしかありません。

その目的は経営ビジョン、企業理念を実現する点にあります。 知財戦略を例にしましたが、TRIZの技術予測やDE(方向づけられた進化の法則)を使用した予測を行うに当たっては、そもそも何のために将来予測をしようとしているのかをよく考えた上で実行しなければならないことを覚えておいてください。