原因結果系統図に対する目的手段系統図

系統図には、表と裏の系統図があります。人間の願いが叶うことを阻む原因を追求するといった消極的な行為に使用する「原因結果系統図」を裏の系統図といえます。 これに対して、人間の願いを叶えるといった積極的な行為に使用する「目的手段系統図」を表の系統図と考えられます。
つまり、これら2つの系統図は、密接な関係にあります。 たとえば、「目的手段系統図」を作成するテーマは、現状を表す「原因結果系統図」の最上位に位置する結果があるべき姿と異なっているため、あるべき姿と現状との差異を埋めるために設定されます。
また、「目的手段系統図」によって目的達成のための手段を展開していく場合には、「原因結果系統図」の原因を取り除くためにどうするかを考えることで的確な手段が見つかります。
「目的手段系統図」とは、物事の働きを人間の狙いと達成方法といった観点で眺めた場合の目的と手段との体系図であって、人間が創造する場合の構造をモデル化したものといわれています(「目的発想法」、村上哲大著、都市文化社発行)。
別のいい方をすれば、テーマ(目的)に対するアイデア(手段)の関係を示したものともいえます。 つまり、物事には何らかの機能があり、その機能を目的機能と手段機能といった形で表現して、それらの関係を体系図としてまとめられます。
具体的には「~するために~する」といったように、目的機能と手段機能をペアで表現する形で、目的と手段とがつながっています。 そして、1つの目的に対する手段は、必ず2つ以上あるといった階層構造を示しており、上に目的を下に手段を記載するようにすれば、その「目的手段系統図」の頂点にはあるべき姿といった理想が掲げられます。
テーマに対して「どのようにして」または「どうする」という言葉を次々に発すれば、テーマ(目的)が具体化されたアイデア(手段)が創出されます。テーマから下がっていくと、より具体的個別的なアイデアが現れます。
底辺には見る、話す、聞く、書く、読むといった完全に身についたことや無意識的なこと、あるいはそれ以上説明を必要としない、基本的で日常茶飯事的なことが位置するといいます(「創造性を高めるアイデア発想の技術」、さとう秀徳著、日本実業出版社発行)。
原因結果系統図と目的手段系統図とは裏表の関係にあるということは、実際の問題解決に当たっては、どちらか一方のみを使ってよしとするのではなく、場面に応じて両者を使い分ける(両方を使う)姿勢が望まれます。

問題発見、問題解決と因果関係

鉛筆が机から落ちて芯が折れてしまうのは困りものです。これは問題だと思いますが、なぜ机から鉛筆が落ちるのでしょうか?
それは、「鉛筆は転び易い」からだとわかります。 なぜ、転び易いのでしょうか?机が傾いているわけではありません。 それは、使っている「鉛筆の断面が丸い」からです。 ここまでくると、鉛筆の断面の形状を変えれば転び難くなるのではないかという考えが生まれます。
問題となっている結果、つまり、好ましくない結果の原因を見つけるには、「なぜ、その結果が生まれたのか?」という質問に対する回答を考えればよいといわれます。 「なぜ」という言葉が、原因を見つけるためのキーワードということです。
鉛筆の断面の形状を変えれば転び難くなるのではないかという考えが生まれたら、たとえば、鉛筆の断面を三角形ないし八角形といった多角形にすればよい(「断面を多角形にする」)というアイデアが浮かびます。
このようなアイデアなら多くの人が思いつくはずです。 そこで、人と違ったアイデアが欲しい場合にどうするか。 その場合には、今の問題にしている「鉛筆を転び難くする」のは、何のためなのかを考えてみます。
すると、それは「鉛筆が机から落ちないようにする」ためであるとわかります。 それならば、使い終わった鉛筆を入れ物に入れてしまってもいいし(「ペンスタンドにさす」、「ペンケースに入れる」など)、鉛筆の本体にころがり摩擦の大きな素材で作った「グリップをはめる」ようにしてもいい、といったアイデアが浮かぶでしょう。
「鉛筆は転がってもいい」。「鉛筆が机から落ちなければいい」というように、ひねった考えをしても面白いでしょう。 すると、芯の先端から芯の根本側に向かって鉛筆の本体を徐々に太くするといったアイデアが出たりします。
なぜなら、その鉛筆は、置いた場所で鉛筆の長さに等しい大きさの円を描いて回転するだけで、机からは落ちないと考えられるからです。 原因と結果の因果関係はもちろん、目的と手段の関係も、目的を結果と捉えて手段を原因と捉えれば因果関係であるといえます。
問題発見も問題解決も、実は因果関係を突き詰めることが重要であるといえます。

原因結果系統図と問題解決

「原因結果系統図」とは、物事の原因と結果との関係を体系化した図です。 たとえば、ハードウェアに関する問題であれば、その問題を結果として捉え、その結果はどのような自然法則(因果関係=仕組み、機構)が働いたかを確かめれば、その原因がわかります。
原因→仕組み、機構(自然法則)→結果 結果(問題)に対して「なぜ」という質問をすれば、結果(問題)が具体化された原因がわかります。 原因を上に、結果を下に書くようにすれば、「原因結果系統図」の頂点には現状の結果が位置します。
頂点の結果(問題)から下がっていくと、より具体的個別的な原因が現れ、底辺にはそれ以上説明を必要としない、自然法則が位置します(「創造性を高めるアイデア発想の技術」、さとう秀徳著、日本実業出版社発行)。
対象となるテーマから「どうなる」という言葉を発しながら上にあがると(抽象化すると)上位の結果(問題)が次々と現れ、ついには現状の結果である頂点に至ります。 対象とするテーマから上がっていくと、次々と上位の結果が現れ、ついには頂点に位置する現状の結果に至ります。
結果か原因かとは相対的なものであり、どの概念も結果といえども原因であり、原因といえど結果であるといえます。
問題を解決するためには、その問題自体をはっきりと認識するとともに、問題の状況を作り出している自然法則(仕組み、機構)に沿った因果関係を把握して、問題が生じている原因を突き止め、その原因を取り除く努力をすることになります。

特性要因図と因果関係ダイヤグラムとの違い

QC(Quality Control)活動で使われている問題解決法は、不具合を生じているのはどこに原因があるのか、細部に分けて調べ、悪い部分を改善していこうという分析思考を中心としたものです。
全体を細かい要素に分け、1つひとつを検討し、悪い部分を置き換えるというアプローチを採用しています(「こんなにやさしいアイデア発想法」、杉浦正他著、(株)日科技連出版社発行)。
これは明らかに因果関係の法則を利用した手法であるといえます。たとえば、1つの問題の特性について因果関係をたどっていき、最終的にはいわゆる「魚の骨」のように多数の原因に枝分かれした「特性要因図」が作成されます。
ただし、「特性要因図」の場合には、各大枝の要因に関連する中枝の要因や小枝の要にどのようなものがあるかはわかりますが、異なる大枝、中枝、小枝間の要因同士の関係はまったくわかりません。 そのため、その問題を解決するには、多数の原因の1つひとつを排除していく改善策を考えます。
現実的には時間と労力に限りがありますので、全体の結果の8割が、たかだか2割の原因によって生じているという「パレートの法則」に従い、重要度が高いと思われる主要な要因を2つ、3つ選んで手を打つことになります。
1つの特性(状態)は複数の要因(原因)の影響を受けているといった内容が表現がされていますが、中枝や小枝同士の関係がわかりませんので、どの要因(原因)に手を加えればよいかの判断が難しいといえます。
特性要因図が因果関係を表している点では、I-TRIZのプロブレム・フォーミュレータで描く因果関係ダイヤグラムと同じです。 特性要因図では、同じ系統または/および異なる系統の大枝、中枝、小枝間の要因同士は接続されることがありませんが、プロブレム・フォーミュレータの因果関係ダイヤグラムでは、データ間に原因と結果の関係にあれば異なる系統(機能群、部品群)の間のものであっても、原因から結果に向かう矢印で接続します。
そのため、問題のメカニズムが明確になり、不具合である結果から矢印を逆方向に辿ることで、その根本原因が何なのかがを知ることができます。 したがって、因果関係ダイヤグラムを使用すれば、パレートの法則に頼ることなく直接根本原因を取り除くための対策を検討することができます。

問題分析のための図解ツール

「問題は、その状況が明確になれば解決できたものと同然である。」といわれるように、問題解決に先立ち、問題の状況を分析し、問題を正しく定義して、取り組むべき具体的な課題を明確にすることが重要になります。
問題の状況を「見える化」するための方法は、従来からいろいろな図解ツールが考えられており、そのための解説書がたくさん発行されています。ここでは、その中で「因果縁報」を表現できる「因果関係ダイヤグラム」を紹介し、その使い方を実例に沿って説明したいと思います。
ここでいう「因果縁報」を表現できる「因果関係ダイヤグラム」とは、I-TRIZ(Ideation TRIZ)の「原因結果ダイヤグラム」とTOC(Theory of Constraints:制約条件理論)の「論理ツリー」であり、いずれも比較的最近になって考え出されたものです。
I-TRIZの「原因結果ダイヤグラム」は、米国のアイデイエーション・インターナショナル社(Ideation International Inc.、以下II社という。)が開発したイノベーション・ワークベンチ(IWB:Innovation WorkBench)およびプロブレム・フォーミュレータ(PF:Problem Formulator)というソフトウェアで使われている図解ツールです。
イノベーション・ワークベンチ(IWB)のソフトウェアの日本語版(2.9J)が学校法人産業能率大学から販売されたのが2000年です。 TOCの「論理ツリー」は、TOCの創始者であるエリヤフ・ゴールドラットの著作による「ザ・ゴール2」という小説の中で、思考プロセスという手法のツールとして紹介されたのが最初ですので、日本では2002年に公開されたものです。

因果関係と因果縁報

本を読んだりセミナーを受講して知識を獲得するといった個人の問題から、いろいろと考えをめぐらして未来を創造するといった企業や組織の問題のように、小さな問題から大きな問題まで、大きさの違う問題があります。
また、ものづくりといった産業上の問題から、マーケティングといったビジネス・経営上の問題、政治・経済といった組織・社会的な問題まで、いろいろな分野に関係する問題があります。 それらすべての問題が1つの法則で成り立っているといったら驚かれるでしょうか。
それは、「因果関係の法則」または「因果の法則」といわれるものです。 因果関係とは、2つ以上のものの間に原因と結果の関係があることをいいます(「デジタル大辞泉」、小学館発行)。「因果」とは短時間の原因と結果の関係を表します。 これに対して、長時間の縁と報いの関係を「縁報」といいます。因とは直接的原因のことをいい、縁とは間接的原因ことをいいます。
そこで、問題によっては因果関係だけではなく、縁報関係についても考慮に入れる必要があるということになります。 「因果縁報」とは仏教用語であるといわれていますが、そもそも日本には古くから問題解決学として仏教がありました。
ここでいう仏教とは宗教としての意味ではなく、お釈迦様の思考方法に限った意味です。 お釈迦様は人の悩みを救うにはどうしたらよいいか、を考えたといわれています。 人が持つ悩みとは、自分が直面している「問題」が解けないことと考えられます。
なぜうまくいかないかと、その原因を追求して、どうしたらいいかとあれこれ考えた末、その結論を出せないで悩むことになるというわけです。 日常的な悩み事から未来を創造する問題まで、すべての問題が「因果縁報」で説明できるとすれば、これを逆手に取ればそれらの問題解決ができるのではないか。
「因果縁報」の分析が十分行われた場合には、自然と根本的な問題の所在が明確となりますので、後はその根本的な問題に集中した取り組みを開始すればいいわけです。 具体的には、因果関係を図式化したダイヤグラム(以下、因果関係ダイヤグラムという。)を見て、どこをどのようにすれば、他のどこがどのように変化するかを予測しながら解決案を考えます。
さらに、変化後の「因果関係ダイヤグラム」を作成して、次に起こり得る二次的問題を事前に予測し、その二次的問題の防止策も考えるようにします。 また、変化後の「因果関係ダイヤグラム」を作成すると、そのシステムの変化後の進化レベル(発展の段階)を確認できますので、その時点での進化の潜在ポテンシャルが読めることになります。
そこで、その先の進化レベルを目指すようにすれば、そのシステムをより理想的な状態に近づけられます。

新しい研究開発のテーマを見つける方法(3)

I-TRIZには、製品や工程などの技術システムについて、可能性として結びつくすべての危険、または有害な事象を事前に明確にし、それらを回避するための不具合予測(FP:Failure Prediction)という手法があります。
不具合予測(FP)のプロセスの特徴は、潜在的な不具合を推測する代わりに、問題を能動的な課題へと「逆転」させるところにあります。 不具合予測(FP)では、分析問題を発明問題に変化すために、「どうしたら、不具合が起こせますか?」という質問をします。 システムの機能の焦点、つまり、システムにおいて要点となる(弱いまたは危険な)機能/作用/状態(通常複数)を選択します。
これを行なうには、対象システムの中の弱いゾーンと危険なゾーン(いずれも複数)をすべて選び出します。 次に、選び出されたそれぞれのゾーンに関して、(1)そのゾーンの”弱さ”の原因となっている有益機能/動作と、(2)そのゾーンを危険なものとしている有害機能を抽出し、これらの有益機能と有害機能とを因果関係で結合したダイヤグラム(IWBのプロブレム・フォーミュレータで描くものと同様のもの)を作成します。
作成した因果関係ダイヤグラムの中で、より多くのリンク(機能を結合する矢線)が出たり、入ったりしている所が不具合の「焦点」となります。 その「焦点」について、関係づけることのできるすべての不具合を予測し、その不具合を取り除いてしまえば、このシステムは実際上安全と見なすことができます。
そして、予測した不具合を実現するのに必要な資源が、現行のシステムの中にあることが確認できれば、その不具合は発生すると考えて間違いない(仮説が検証された)ことになります。 以上のような手順(不具合予測)によって見つけた潜在的不具合は、誰も気がついていない新しい研究開発テーマであるといえます。

新しい研究開発のテーマを見つける方法(2)

新しい研究開発のテーマは、時代を先取りすることで可能になります。 時代を先取りする方法として、TRIZの進化の法則が使えます。 I-TRIZで進化のパターンといっているものは、人工的なシステムの歴史的な発展の過程に繰り返して観察される傾向を抽出したものです。 典型的な進化のパターンは、以下の8つです。
(1) 進化の諸段階
(2) 理想性の向上
(3) 要素の不均衡進化(矛盾)
(4) 柔軟性と制御性の増加
(5) 複雑化後簡素化
(6) 要素間の対応と非対応
(7) ミクロ化と階層化
(8) 人の関与の減少
進化のパターンのほとんどについて、そのパターンに沿ってシステムが変化していく中で順次経過していく典型的な段階を示す進化のラインを認めることができます。 進化のラインという系統的な段階を知っていれば、あるシステムがそのライン上で現在どの段階にあるか、今後どのような変化の道筋をたどる可能性が高いか、という判定をすることが可能になります。
つまり、そのシステムの今後の発展の道筋を予測することが可能になるのです。 進化のパターンを広く深くかつ詳細に適用して、対象とするシステムの今後の発展の可能性を体系的、網羅的に検討し、システムの将来像、その途上で克服すべき課題を明らかにすることができます。
たとえば、「柔軟性と制御性の増加」には以下のような進化のラインが明らかになっています。 (1)柔軟性のないシステム→(2)メカニカルなレベルで変化するシステム→(3)ミクロレベルで変化するシステム→(4)様々なエネルギー場を使って制御可能なシステム
この進化のラインが示すように、柔軟性と制御性が増すことによって条件が変化してもシステムは高い理想性を維持することができるようになります。 航空機の主翼、自動車の座席、ベッドその他多くのものがその形態を変化させることができ、柔軟性を持ちその結果として使い心地のよいものになりました。
この傾向は極めて強い傾向です。 矢印の先が進化の方向を示していますので、仮に現在のシステムが蝶番を使って人手でその形態を変化させているものであれば、将来材料の組成を利用した形態の変化や電気的なエネルギーを使ってその形態を自動制御できるシステムに変化することが予測できます。
したがって、新しい研究開発のテーマをその範囲で探索することにより時代を先取りすることが可能となります。

新しい研究開発のテーマを見つける方法(1)

今、日本では先進国に学ぶものがない状態の中、新興国の技術力の脅威にさらされています。たとえば、ついこの前まで日本がトップを走っていた液晶カラーテレビにしても、今では40インチの液晶カラーテレビが5万円を切る値段で販売される時代になっています。
技術の世界でトップを走り続けるには、技術的な問題を解決するスピードが大切であることはもちろんですが、追随を許さない程に他社との距離を離そうとしたら、それだけでは不十分です。 むしろ、他社と同じ道を走らないことを考えるべきです。
そのためには、どこも手がけていない新しい課題をいち早く発見することです。 研究者、技術者には、自分たちの技術開発の成果である発明を生み出し、その発明を確実に特許化して他社の模倣から製品を保護することで、先行者利益を確実に手に入れることが求められています。
発明は特定の目的(課題)とその課題を実現するための特定の手段とからなっています。したがって、特許化の要件である新規性のある発明(新しい発明)といえるためには、課題か手段のいずれかが新しければよいわけです。
一般には、手段の方にのみ関心が向いてしまい、どこもやっていない手段を考え出すことに注力しています。それは、他と同じ課題を実現しようとしているからです。課題が新しくない場合には、新しい発明をしようとしたら新しい手段を考え出すしかありません。
そこには、新しい手段を考え出す技術開発競争の世界があるだけです。従来と同じ、いつかは過当競争の中に巻き込まれる、いわゆるレッド・オーシャンの世界です。 しかし、誰も手がけておらず、特許公報や論文、雑誌といった刊行物にも記載されていなくて、インターネットでも公開されていない課題を自ら発見したとしたら、それは新しい課題を発見したことになります。
そして、その新しい課題を実現する手段を考えたならば、それは新しい発明といえるわけです。そこは、誰もいないきれいなブルー・オーシャンの世界です。 しばらくしてから、どこかが同じ課題に目をつけて追従してくるでしょうが、先行者であるあなたが自らその技術を開示しなければ、他社は具体的な製品を手に入れてリバース・エンジニアリングをするしか手がありません。
そのため、あなたに追いつくまでにはかなりの時間と人手を費やすことになります。 仮に、追いつかれたとしても、そのときにはあなたはまた別の違う道(新しい課題)を走っていることでしょう。
先行者の地位を守ろうとすれば走り続けなければならないのは従来と同じですが、常に自分が意図している方向に向かって走っていることを実感しながら走っているという自信(推進力)は絶大な力を発揮し、結果的に競争力優位な立場を維持し続けられることになります。 たとえば、スチーブ・ジョブスが率いていたアップルの技術開発力がそのお手本といえます。
I-TRIZには、今のシステム(製品、技術プロセスなど)を新しい世代のシステムへと進化させる企画の立案作業を支援するために、戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)という手法があります。
これは、未来を意図的に自分の思う方向へ制御することを目的するものであって、新しい課題を追い続ける世界を実現するものです。 戦略的世代進化(DE)は、技術や社会の進化のパターンを広く深くかつ詳細に適用して、対象とするシステムの今後の発展の可能性を体系的、網羅的に検討し、システムの将来像とその途上で克服すべき課題を明らかにします。

TRIZを知らない人でも使えるI-TRIZ

日本でTRIZといえば、創案者であるアルトシュラーが第一線で研究開発していた時代までの「古典的TRIZ」のことと思っていいでしょう。
現在、日本で販売されている日本語のTRIZに関する書籍は、そのほとんどが「古典的TRIZ」の一部分(技術的矛盾と発明原理)についての説明で終わっています。 そのため、TRIZといえば発明原理を使って問題解決を行うものであるという誤解が生まれ、発明原理で歯が立たないような問題に出会った際に、TRIZは使えないという短絡的な評価がなされているようです。
一方、「古典的TRIZ」のすべてを習得しようとすると、その膨大な体系がネックとなり100時間近い学習が必要であるといわれています。そのため、中々実務で使いこなせるようになるまでには至らないのが実情です。
そのため、TRIZは習得するまでに膨大な時間がかかり過ぎるので、実務には使えないという評価を下すことになります。 いずれの場合も、TRIZが使えないという結論を導くことになってしまっていることは、残念なことです。
これに対して、I-TRIZは「古典的TRIZ」の膨大な体系を有効に活用しながら、その使い勝手をよくすることを目的として改良されたものです。 「古典的TRIZ」のことは何も知らなくても大丈夫です。
研究者、技術者が日常的に使っているエンジニアリング・プロセスをそのまま辿ればいいように作られています。 最初に、問題の状況をいろいろな観点で分析し、分析した結果を第三者にもわかるようにプロブレム・フォーミュレータを使って図式化します。すると、その図式の因果関係を辿ることで、どこにその問題の原因があるかがわかるとともに、実現しなければならない課題が明確になります。
どのような問題であっても、その問題を解決するための課題は、有害な機能を削減するか、有益な機能を別の手段で実現するか、ということです。もちろん、有害機能をなくし有益機能をさらによくすることを考えてもいいわけです。
課題を実現する手段を考え出すには、その問題を抱えているシステムの中やその周りにあって、その問題を解決するために使えるもの(これを資源という。)に、何らかの手を加えてシステムの状態を変化させることを考えます。
資源にどのような手を加えるかについては、先人の知恵を大いに使うことを考えればいいのです。この先人の知恵を発明の定石パターンとしてまとめたものが、「古典的TRIZ」で使用される発明原理、分離の原則、発明標準解、工学的効果集、進化の法則といったものです。
I-TRIZでは、オペレータ・システムを使うことで、課題のパターンに応じてこれらすべての発明の定石パターンのうちから最適なものが提示されます。 その結果、課題の実現に役立つ複数のヒントが提示されますので、それらのヒントを使ったブレーン・ストーミングを行うことにより沢山のアイデアが発想できます。
以上のように、I-TRIZを使えば、問題をどのように定義すればいいか(技術的矛盾、物理的矛盾、物質-場分析、技術的作用、進化段階などの特定)といったことで悩む必要がなくなります。また、どの定石パターン(発明原理、分離の原則、発明標準解、工学的効果集、進化の法則など)を使えばいいかといった悩みもなくなります。
さらに、I-TRIZでは、古典的TRIZにはない、(1)現場で生じる不具合の原因を追及してその不具合を改善するための不具合解析(FA:Failure Analysis)と、将来生じるおそれのある不具合を予測してその予防対策を講じるための不具合予測(FP:Failua Prediction)、(2)技術分野の進化だけではなく市場の進化をも考慮に入れた次世代の商品・サービスの企画を行うための「戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)」、(3)他社特許回避、発明強化、発明評価といった知的財産活動のための「知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)」といった新しい分野へ適用範囲を拡大しています。
TRIZを知らない人、TRIZを使いこなせなかった人でも使えるI-TRIZの威力を体験し、実務に活用してみて下さい。