未来を制御するために一番必要なこと

私たちは未来のことを考える際に、未来予測、未来予知という言葉を使います。
予測とは、未来に起こる事象を客観的・科学的根拠により予測すること(大辞林、第三版)をいいます。予知とは、将来起こる出来事を超感覚的に知ること(大辞林、第三版)をいいます。
予測は客観的、科学的な判断により、予知は主観的、精神的な判断によるものというのが、一般的な解釈のようです。
いずれの場合であっても、「未来に起きる事象の発生を予め知る」という点については同じです。
アイディエーション・インターナショナル社では、製品の開発や使用に関連して遭遇する技術的な難問を克服する目的で使用するための発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)という手法を提供しています。
また、製品や工程などの技術システムにおける不具合や他の問題の原因を明らかにし、必要に応じて、不具合を是正する手段を講じるための体系的な手法である不具合分析(FA:Failure Analysis)と、製品や工程などの技術システムについて、可能性として結びつくすべての危険、または有害な事象を事前に明確にし、回避するための体系的な手法である不具合予測(FP:Failure Prediction)という手法を提供しています(両者を合わせて先行的不具合対処(AFD:Anticipatory Failure Determination)と呼んでいる)。
また、製品や工程などの技術システムを新しい世代のシステムへと進化させる企画の立案作業を支援する戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)という手法を提供しています。
さらに、他社特許の回避、無効化の検討の他、特許の侵害と回避からの保護を強化して自社の知的財産の価値を増加させるための知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)という手法を提供しています。
発明的問題解決(IPS)、先行的不具合対処(AFD)、戦略的世代進化(DE)、知的財産制御(CIP)に共通する概念として、製品や工程などの技術システムについて、可能性として結びつくすべての危険、または有害な事象を事前に明確にし、それらの不具合を回避するといった不具合予測(FP)の考え方があります。
不具合予測(FP)の考え方は、未来に起きる不具合事象の発生を予め知った後でその事象を回避するといった消極的な対応(発明的問題解決(IPS)、先行的不具合対処(AFD))に使用するのみではなく、未来に起きる事象の発生を予め知った後でその事象を自らの人生や事業の発展に結び付けるといった積極的な対応(戦略的世代進化(DE)、知的財産制御(CIP))にも使用できます。
未来に起きる事象の発生を予め知った後でその事象を自らの事業の発展に結び付けるといった積極的な対応のことを、人間が意図的に行う行為という意味で「未来制御」と呼ぶことができるでしょう。
つまり、アイディエーション社の不具合予測(FP)は、未来制御のための手法であるといえます。
意図的に自分が思う方向に未来を制御したいのであれば、不具合予測(FP)の概念が組み込まれている戦略的世代進化(DE)、知的財産制御(CIP)に取り組むことをおすすめします。
戦略的世代進化(DE)、知的財産制御(CIP)に取り組むうえで重要なことがあります。それは未来制御する理由に当たる「ビジョン」を持っていることが成功するための前提ということです。
現在はまだ達成できる状態でも達成できる力もないが、未来にはぜひ達成したいと望む未来の状況や状態の明快なイメージのことを「ビジョン」といいます(「未来を変えるとっとしたヒント」、小野良太著、(株)講談社発行)。
どの会社にも経営理念や経営方針があるように、グループやその他の組織や個人でもビジョンを持つことができます。個人の問題でも会社の問題でも未来の問題解決には多くの時間がかかります。したがって、それにはビジョンという強力なエネルギー源が必要になります。
TRIZに限らず、何らかの新しい手法を導入する前には、それなりの心構えが必要な所以です。

IWBの中のFP(不具合予測)の利用

前回はIWB(Innovation WorkBench)というソフトウェアの中に組み込まれているFA(不具合分析)というソフトウェアの簡易版について説明しました。
今回はIWB(Innovation WorkBench)というソフトウェアの中に組み込まれているFP(不具合予測)というソフトウェアの簡易版について説明します。
FP(不具合予測)というソフトウェアの簡易版は、Ⅰ.問題の情報把握→Ⅱ.プロブレムフォーミュレーションとブレーンストーミング→Ⅲ.方策案のまとめ→Ⅳ.結果の評価といった4つの大項目からなるアイディエーション・プロセスの中の、Ⅳ.結果の評価に含まれています。
なぜ「結果の評価」の段階にFP(不具合予測)があるかというと、当初の問題を完全に解決する完璧な解決案を考えついたと思っても、実行に移すと予期せぬ不具合が起こることがあるからです。
そこで、解決策を出した後で、その解決案の潜在的不具合を事前に予測し、予測した不具合の予防策を講じるためにFP(不具合予測)を使用することになります。
FP(不具合予測)の簡易版は、
(1)問題の逆転
(2)理想的シナリオの作成
(3)不具合シナリオの作成
(4)発見した不具合を予防する対策の検討
の4つのステップでできています。
(1)問題の逆転では、「気がつかないようなどんな不具合がおこるだろうか」と考える代わりに、「(解決策の内容)を実行に移した時に、生じる可能性のある好ましくない影響や不具合を全て引き起こさなければならない。」という定型表現を使用して、問題を逆転させて不具合を故意に引き起こす、あるいは、可能な不具合を「発明する」ことを試みます。
問題を逆転する理由は、前回説明したFA(不具合分析)の場合と同じですので、そちらの説明を参照してください。
(2)理想的シナリオの作成では、解決策が実現するまでの過程で起こるすべての事象と、システムが機能しているときに生じるすべての事象をリストアップします。
(3) 不具合シナリオの作成では、リストアップした事象を順に取り上げ、その事象に関連して引き
起こすことが可能な不具合のシナリオを作成します。
FP(不具合予測)では、以下のような不具合が発生する可能性の高い場所や条件のチェックリストが提供されていますので、これらを参考にして不具合のシナリオを作成するとよいでしょう。
【不具合予測のためのチェックリスト】
a.弱いゾーン・危険なゾーンで起こすことができる不具合を考えてください。
・流れが集中するゾーン
・強いエネルギーにさらされたゾーン
・矛盾をかかえたゾーン
・いわくつきのゾーン
・複数のシステムが連結されるゾーン
・複数の機能を持たされているゾーン
・工具とワークとが接触するゾーン
b.装置や物などに関連して予測される不具合を考えてください。
技術システムの不具合(すなわち、システムレベルにおける機能不全)
・装置の不具合
・構成要素の不具合
・材料の不具合
・自然物/自然システムに関連する不具合
c.方策を実現に移すそれぞれの段階で予想される有害な影響/作用を考えてください。
・機械的作用
・温度の影響
・化学作用
・電気作用
・磁気作用
・生物に関連する影響
・電磁波の作用
・情報の影響
・心理的な影響、感情の要因
d.潜在的に危険な瞬間/期間について考えてください。
・通常単調な操作/行程が不安定になる時期
・全体の緊張が高まる時
・新人や外部の訪問者が居る時
・個人の緊張が高まる時
・災害、事故、故障などの直後
・テスト期間など
(4)発見した不具合を予防する対策の検討については、IWBの問題解決の手順に沿って進めれることになります。

IWBの中のFA(不具合分析)の利用

アイディエーション・インターナショナル社が販売しているIWB(Innovation WorkBench)というソフトウェアは、I-TRIZ(Ideation-TRIZ)の基本的なソフトウェアです。
IWBは、主として研究・開発分野の問題解決を目的としたもので、Ⅰ.問題の情報把握→Ⅱ.プロブレムフォーミュレーションとブレーンストーミング→Ⅲ.方策案のまとめ→Ⅳ.結果の評価といった4つの大項目からなるアイディエーション・プロセスに沿って思考を進めていきます。
Ⅰ.問題の情報把握では、問題の状況に関する情報収集と問題解決に役立ちそうなシステム内の資源とシステム周辺の資源を探索します。
問題の状況に関する情報収集は、特に重要なのはシステムの問題発生のメカニズムを「原因→問題→結果」という観点で分析する部分といえます。
なぜならば、問題の原因が見つかれば、目的とする機能を損なわずにその原因を取り除くことができれば当初の問題は解決するからです。
しかしながら、実は問題の発生メカニズムを見つけ出すことが難しいのです。
当事者は問題を隠したがるため、分析のための情報が乏しいといえます。システムの構成要素のすべてについて問題の原因となる可能性を検討するには、問題解決手段を考えるより多くの時間が必要になることがあり、現実的ではありません。
そこで、IWBでは、問題が発生するメカニズムを発見するために「不具合分析の手順」を活用することを進めています。
IWBの中の「不具合分析の手順」は、FA(不具合分析)というソフトウェアの簡易版であって、
(1)問題の記述
(2)反転問題の記述
(3)反転問題の拡大
(4)(反転問題を起こすための)解法の探索
(5)仮説とその実証テストの記述
(6)不具合の解消、といった手順が示されています。
「不具合分析の手順」の中で問題発生のメカニズムを発見する部分は、(2)反転問題の記述と(3)反転問題の拡大、(4)(反転問題を起こすための)解法の探索、の3つです。
(2)反転問題の記述では、「所定の状況下で(問題の発生する状況を記述)、問題(障害を記述)を再現する必要があります。」という定型表現を採用することで、発生している問題を故意に発生させる方法を考えさせます。
たとえば、ヘリコプタのブレードの主荷重を支えるロンジロン、すなわち表面を研磨および酸化処理した複雑な断面形状のパイプに黒点という望ましくない結果は加工、研磨、電気酸化処理を含む製造工程の状況下で引き起こされている問題(以下、ロンジロンの黒点問題という。)の場合には、「既存の製造工程の状況下でロンジロンの表面上の黒点を再現する必要があります。」のように表現します。
問題を反転する理由は、不具合分析の問題を「発明をする問題」に置き換えることで、情報量の多い発明に関する情報源にアクセスを可能とし、しかも創造性を発揮する前向きな思考に取り組むことができるといった利点が得られるからです。
発明に関する情報源は、問題を生じた分野とは関係のない他の分野のものであるため、担当者が否定的な反応を生じることがないので、情報収集作業にとって好都合です。
(3)反転問題の拡大では、「状況下で(状況を記述)拡大された現象(現象の記述) を実現する必要があります。」という定型表現を採用することで、発生している問題の現象を拡大し、問題を拡大させることで、問題の複雑さを見失わないようにします。
ロンジロンの黒点問題の場合であれば、「既存の製造工程という状況下でロンジロンの表面に完全な黒点を発生させる必要があります。」のように表現することになります。
以上のような準備が整ったら、(4)(反転問題を起こすための)解法の探索に進みます。
以下、ロンジロンの黒点問題を例に説明します。
文献検索や専門家との意見交換の結果、「アルミニウムに黒点が発生するには、アルミニウム表面を希塩酸で酸化処理をする必要がある。」がわかりました。
まず、反転問題を起こすための必要な構成要素を特定します。
物質:アルミニウム地金、希塩酸、ガルバニ溶液(電解質溶液)
エネルギー:化学的エネルギー、電気的エネルギー
空間的条件:アルミニウムの表面が希塩酸に晒される状態
次に、問題のシステムやその周辺に、必要な構成要素に対応する資源を確認します。
必要な構成要素中の希塩酸だけが見つかりません。
そこで、問題のシステムやその周辺に存在する資源から希塩酸を作り出せないか検討します。
塩酸は水素と塩素から生成されます。周囲には大量の水素(大気中の水分、冷却液など)が存在します。塩素は加工中に使用する冷却液(水道水)の中にあります。ゆえに、塩酸も存在したと考えられます。そして、水、水素と塩素から生成された数滴の塩酸がアルミニウムの表面に付着することが考えられます。
以上で、問題の発生メカニズムについての1つの仮説が完成したことになります。実際には、この仮説が正しいかどうかを確かめるために、簡単な実験を行うことになります。

アイディエーション・プロセスの使い方

アイディエーション・インターナショナル社のIWB(Innovation WorkBench)というソフトウェアが採用している思考プロセスを「アイディエーション・プロセス」と呼んでいます。
その内容は、Ⅰ.問題の情報把握→Ⅱ.プロブレムフォーミュレーションとブレーンストーミング→Ⅲ.方策案のまとめ→Ⅳ.結果の評価といった4つの大項目からなっています。
Ⅰ.問題の情報把握は、1.状況の要約→2.システムアプローチ→3.資源、制約、制限の3つの中項目からなっています。
状況の要約では、専門用語を使わずに中学生にもわかるように問題状況を詳細に記録します。これは、状況をより一般化することで、解決策を探すうえで幅広いアプローチを可能にするためです。
システムアプローチでは、2.1.上位システム-システム-下位システム、2.2.インプット-プロセス-アウトプット、2.3.原因-問題-結果、2.4.過去-現在-未来、といった4つの観点から問題状況を体系的に分析します。
資源、制約、制限では、システムあるいはその周囲に存在する何らかの特性で、システムを改良するために利用できる「3.1.利用可能な資源」、問題を解決するに当てってシステムをどこまで変化させることが許されるかという「3.2.システムの変化の許容範囲」、システムを変化させる上での「3.3.制約と制限」、問題解決の成功と不成功とを評価する基準である「3.4.解決策の評価基準」、といったことを検討することで、採用できない方策案を検討することによる時間と労力の無駄を避けようとします。
Ⅱ.プロブレムフォーミュレーションとブレーンストーミングでは、まず、複雑に絡み合った結果として生じている好ましくない状況の構造を明らかにしたダイヤグラムを作成し、それぞれの問題について複数の解決するアプローチまたは可能性を指し示す手がかり(これを指針という。)を手に入れます。
次に、指針のリストの中から、検討する必要があると思う指針を選び、選んだ指針それぞれについて、指針が示唆するヒント(これを、オペレータという。)を使ってブレーンストーミングでアイデア発想します。
Ⅲ.方策案のまとめでは、事前の準備として複数のアイデアを同一の機能および/または同一の構成要素に分類する「1.アイデアの分類」と、同一の機能をねらったアイデア同士を組み合わせたり、アイデアと既存のシステムを組み合わせて方策案作り、その方策案の単純化を試みることで、問題の様々な側面に対処でき状況を大きく改善する最終的な方策案をまとめあげるための「2.方策案のまとめ」を行います。
Ⅳ.結果の評価では、方策案に付随する顕在的・潜在的な欠点そのものを二次的な問題ととらえて、その二次的な問題を解決することで実行可能な方策案に仕上げます。
そのために、Ⅳ.結果の評価では、二次的問題を定義してその解決策を案出する「1.方策案と評価基準との照合」、潜在的不具合を事前に予測しその不具合の予防案を案出する「2.不具合の予測と予防」、二次的問題を解決した方策案が基本的な技術システム進化パターンのどの段階にあるか特定してその後どのように変化していくか予測し、方策案をどのように変化させるべきかを検討する「3.進化のパターン/ラインの適用」を行います。
また、方策案を実行に移す前に、その効果を確認するために必要な調査/研究/実験の計画と、その結果を受けて方策案を実行に移すための具体的な計画を検討する「4.実行計画の策定」を行います。
IWBには記載されていませんが、アイディエーション・プロセスを実行する上で重要なことが2つあります。
一つは、実際のプロジェクトを行うに当たっては、Ⅰ.問題の情報把握→Ⅱ.プロブレムフォーミュレーションとブレーンストーミング→Ⅲ.方策案のまとめ→Ⅳ.結果の評価といった順序にこだわらないことです。
私たちが取り組む実際の問題は、改善改良のレベルから新規事業の立ち上げのレベルのように、数日で解決する問題から数年かけて解決する問題まで、幅広いものです。
したがって、オペレータに頼らずとも、プロブレムフォーミュレーションやシステムアプローチだけで問題が解決してしまうものもあれば、一通り全工程を実行した後で、システムアプローチからやり直さなければならないものもあります。
問題の難易度に応じて、アイディエーション・プロセスのうちの特定の項目だけ使用したり、項目を入れ替えたりして使用するこが必要になります。
もう一つは、アイディエーション・プロセスの前に位置付けられている、プロジェクトの内容を確認するための「プロジェクト開始」の項目をしっかりと検討することです。
「プロジェクト開始」の項目は、I-TRIZに特有のものということではありませんが、プロジェクトが成功するか否かを決める重要な要素であるといえます。
「プロジェクトの開始」は、プロジェクトで検討対象としているシステム、プロセスの対象の本来の目的を確認する「1.目的・目標」と、プロジェクトが対処している状況が、ビジネスの観点から、組織の観点から、どのような事情と関連しているのかを理解するための「2.状況の持つ意味」とからなります。
「1.目的・目標」に関連していえば、例えば車の修理に関連して問題が発生しているとしても、車の本来の目的は「修理される」ことではなく、「人や貨物を輸送する」ことであることを認識しなければなりません。また、目的を実現するための目標が現実的なものか否かの見極めも重要です。
「2.状況の持つ意味」では、プロジェクトによって可能性が切り開かれること、あるいは、問題が解決されることによって、誰が有利になるか(誰のためのプロジェクトか)、その状況を本当に改善しなければいけないのか、その状況を改善するとどのような影響が生じるか、などプロジェクトを開始する前に考えておくべきことが記載されています。
「プロジェクトの開始」では、場合によっては、プロジェクト

次にTRIZを進化させるのは日本

知識(コトバ記憶)はコンピュータで処理できますが、知恵(イメージ記憶)は人間にしか使えません。 世間では知恵を出せといいますが、知恵は(自動的に)出るものであって、出すものでは ありません。
知恵が出る環境を整えるための手段の一つが知識ですが、それがすべてではありません。 知恵(イメージ記憶)は体と密接に関係するため、その人の経験、体験によって得られる
内容が異なります。
知らないものは知っているものの類比でしか理解できません。 気づきは、いのちの知恵(X)によって、ある時突然に生まれます。 ただし、その元はその人のイメージ記憶(過去の経験、体験)の中にあるものです。
人にいわれれば「あっそうか!」ということで、気づくことがあります。それは、本人のイメージ記憶の中にあったが、自らは気づくことができなかったという状態です。
創造技法とは、「人にいわれなければ気づかない記憶(潜在記憶)を、どのようにすれば
自ら気づくことができるか」ということを実現するための手段です。
この分野は、コンピュータにはできないと思います。
日本で生まれたKJ法、等価変換理論、NM法などの発想技法ないし創造技法は、すべてこの路線(いのちの知恵を活かす)上にあります。
TRIZは知識のデータベース(たとえば、アイディエーション・インターナショナル社のオペレータ・システム)を持っている点が強みですが、それは知識ですので、公開されれば真似することが可能であって、その差も多いか少ないかだけです。
ただし、TRIZは特定の問題に対する解決策(特定解)を提示するものではないので、TRIZが推奨する一般解を知っただけでは自分の問題解決に役立てることはできませんから、誰でも真似できるというわけではありません。
一般にはいわれていませんが、TRIZの場合には、TRIZが推奨する一般解を自分の問題の解決策に変換するための類比思考のスキルが必要になります。
そのため、類比思考のスキルのない方々から「TRIZは使えない」という評価が生まれてきます。
等価変換理論やNM法では、自分の問題と本質を同じくする異分野の事象をヒントとして問題解決を行いますので、等価変換理論やNM法を使ったことがある方なら抵抗ないところかと思いますが・・・。
知識として提供されたものは、いつかはコモディティ化します。これに対して、見えない(コトバでは表せない)ものは真似しにくいため、コモディティ化しにくいといえます。
コモディティ化しないものに価値、意味、文脈というものがあります。
知識のデータベースを持っているTRIZについていえば、価値、意味、文脈を読み取るための手法を現在の創造プロセスにどのように組み込んでいくかが今後の課題ではないでしょうか。
この点に関して思い当たることは、次の時代は、禅や悟りの文化を持つ日本がTRIZを進化させることになるのではないかということです。
そのような日本版TRIZを開発すること。また、完成した日本版TRIZを日本の研究者、技術者はもちろん、より多くの方々(技術に関係のない仕事をされている方々)に使っていただける環境を整えることがわれわれコンサルタントの使命かと思っております。

簡略版ARIZ

前回ご説明しましたように、TRIZを実施するための手順書であるARIZ(アリーズ)は、アルトシュラーが第一線で研究していたときの最後のARIZ-85Cというもので40ステップもある膨大なものです。
ここで紹介する簡略版ARIZは、アイディエーション・インターナショナル社のIWB(Innovation WorkBench)というソフトウェアに掲載されているものです。
簡略版ARIZのステップは以下の通り、たった3つです。
ステップ1.改善したい状況を記述する。
ステップ2.以下のテンプレートに従って、理想的な状況(解決)を記述する。
(1)要求される有用な効果<記述>を生み出す要素 <記述>以外なにも必要としない。
(2)有害効果<記述>を引起す要素 <記述> をシステムから除去する必要がある。
(3)有害効果<記述> はそれ自体の原因で消え去る。
ステップ3.ステップ2で定義した理想的な状況を実現する方法が思い付けば、問題は解決したことになる。思いつかない場合には、最初に、それを実現する既知の方法を探す。
もし、そのまま採用できる既知の方法が見つからない場合は、以下の手順に従う。
①既知の方法で理想的な状況を妨げる制約(欠点)を記述する。
②障害又は制約を取り除くにはどんな変更をする必要があるかを考える。
③②でその変更を可能にする方法が思い浮ばなければ、「既知の方法を採用することで実現できることと、既知の方法を採用することで生じる弊害」との矛盾を解決するために、分離の原則を活用する。
分離の原則には、
(1)矛盾する要請を空間で分離
(2)矛盾する要請を時間で分離
(3)時間に応じて特性を最適化
(4)矛盾する要請を全体と部分で分離
(5)矛盾する要請を条件で分離
(6)有害な部分を対象物から分離
(7)必要な部分を対象物から分離
といった項目がある。これらの中から、先の矛盾を解決するヒントを得る。
以下に簡略版ARIZを適用した問題解決事例を示しますので、これを参考にして、自分の問題解決に使ってみてください。
【問題】散弾銃を用いて、空中などを動くクレーと呼ばれる素焼きの皿を撃ち壊すクレー射撃というスポーツ競技があります。競技が行われた後は射撃場の地面にたくさんのクレーの破片が散在しています。クレーの破片の後片付けが面倒です。クレーの破片の後片付けを楽にする方法はないでしょうか。
【簡略ARIZの適用】
ステップ1.改善したい状況を記述する。
→クレー射撃場では、競技終了後にクレーの破片を除去する必要があるが、その除去作業を容易にしたい。
ステップ2.理想的な状況を記述する。
→破片は自動的に除去される。あるいは、破片が消えてしまう方がより理想的である。
ステップ3.理想的状況を実現する方法が思い浮びますか?即ち、実現する既知の方法がありますか?
→思いつかない。
既知の方法で理想的な状況を妨げる制約(欠点)を記述する。
→障害:クレーは消えない。
障害又は制約を取り除くにはどんな変更をする必要があるか?
→クレーを消える材料に置き換える必要がある。
③その変更を可能にする方法が思い浮びますか?
→いいえ。
→「射撃をしているときにはクレーは存在し、射撃が終わったときにはクレーが消えてなくなる。」方法を考える。
→矛盾する要請を条件・特性で分離の原則(変化させることのできる何らかの属性あるいは条件を探し、その属性の値あるいは条件がある状態の時には一つの要請を満足し、別の状態の時に反対の要請を満足するようにする。)を適用する。
→氷製の円盤(クレー)を使用することで、破片は周囲温度で溶けてなくなる(打ち損じた円盤も溶けてなくなる)。

TRIZを実務で使いこなす方法

TRIZは、1996年に米国経由で日本に入ってきたといわれています。
実は、TRIZに関する本が日本で1972年に「発明発想入門」(G.アリトシュルレル著、遠藤敬一、高田孝夫共訳、アグネ社発行)という名前で出版されています。
この本は、ロシア語から直接日本語に翻訳されたもので、本の中では、TRIZではなく、ARIZという名称で説明されていました。
TRIZの創案者であるアルトシュラーが第一線で研究していたときのARIZの最終バージョンはARIZ-85Cですが、その中身は、第1部 問題の分析、第2部 問題モデルの分析、第3部 IFR(究極の理想解)と物理的矛盾の特定、第4部 物質・場資源の動員と活用、第5部 情報の蓄積の利用、第6部 問題の変更または変換、第7部 物理的矛盾解消方法の分析、第8部 解決策の活用、第9部 問題解決プロセスの分析、といった全部で9つの部からなり、ステップ数が40もある膨大な体系をしたものです。
現在、TRIZと呼ばれているものは、このARIZ-85Cを基礎としたものであって、MATRIZ(国際TRIZ協会)で行われている国際認定試験もARIZ-85Cを基本とした内容になっています。
したがって、本格的にTRIZを研究しようとすれば、ARIZ-85Cに精通することが望まれます。
しかし、研究・開発の実務にTRIZを活用するだけであれば、その必要はありません。
以下、その理由と、具体的な方法論について説明します。
まず、アルトシュラーが第一線で研究していたときまでのTRIZを古典的TRIZといいますが、その内容は、①技術と技術の目的とは全般的に見ると法則性を持って進化している、②技術の進化における法則性を明らかにすることは可能であり、それを発明問題(技術的難問)を解決する新しい方法を発見するために利用することができる、③発明問題を解決する新しい方法を探す作業過程は論理的で順を追った知的思考のプロセスとして記述することができる、といった公準(基本的前提として必要とされる命題)を基礎としています。
理論としてのTRIZを作り上げるもとになったのは、特許情報と技術史であり、それらの分析の結果から、技術の進化に見られる基本的な方向性(技術システムの進化の法則)を明らかにすることができました。
以上のように、公準と理論の源泉から明らかなように、TRIZの理論的核心の中で最も重要なものは、技術システムの進化の法則であるといえます。
また、TRIZの基本的な概念としては、「技術システム」、「理想的な技術システム」、「機能」、「資源」、「矛盾」、「標準解」、「物質・場」があげられます。
技術システムの進化の法則を基礎として作られた思考ツールには、技術システムの進化のライン、技術的矛盾解決法、物理的矛盾解決法、物質・場分析、標準解、最終理想解オペレータ、ARIZ、心理的惰性克服オペレータ、効果集などがあげられます。
TRIZの思考ツールの中で最も初期のものの1つが「技術的矛盾を解消するための発明原理」です。発明原理は初心者にも扱いやすいということから日本で最も広く普及しているものですが、アルトシュラーはその晩年には「発明原理」とそれと密接に結びついた「矛盾表」を既に古びたものと見なしていたとのことです。
古典的TRIZの中で新しい思考ツールは何かといえば、それは標準解です。
TRIZでは、標準的な問題については標準解を適用することが前提になっています。標準解で解けないようなより複雑な問題については、ARIZを採用するということになります。
新しい複雑な問題をARIZで解いたら、そこで得られた知見を新たな標準解として従前の標準解に取り込んでいくことで、ARIZをさらに進化させていくという考えです。
さて、TRIZの思考ツールの中で最も強力なのはARIZであることはわかりましたが、前述したような膨大な体系を前にして、怖気づいてしまうのではないでしょうか。
「TRIZは難しい、使えない(使いこなせない)」という意見は、まともな意見だと思います。
そこで、TRIZを実務で使いこなすための「助け船」をお教えします。
それは、アイディエーション・インターナショナル社が開発した「簡易版ARIZ」ですが、その詳細については、次回に説明します。

成功事例が聞きたいですか?

セミナー、ワークショップ、シンポジウムの参加者に何か質問はありませんかというと、一番多いのが「I-TRIZを実施した成功事例を教えてほしい」というものです。 野球や料理の場合なら、特定のグラブ、バットや料理器具のような道具によって成果が変動することがあるだろう。
しかし、I-TRIZの実施に関しては、「どのようなときにどのように考えたらいいですか?」という質問をされても、Aさんにとって効果的な考え方はBさんにとっても効果的である保証はないので、BさんがI-TRIZを習得したいときにAさんの頭の使い方を詳細に検討することは意味がありません。
ましてや、Aさんが上級者でBさんがまったくの初心者である場合には、Aさんの頭の使い方の自己分析をBさんが聞いて、Aさんが何を問題にしているのかBさんにとって理解できるかどうかさえ疑問であろう。
「I-TRIZの成功例」というのは、このたとえで見ると、「Aさんはこのような頭の使い方で新商品開発に成功した」という情報と同じであるとみなせます。Aさんの頭の使い方をBさんが真似したとしても、環境や条件の異なる自社の技術分野で成功できる保証はありません。
ましてや、これからI-TRIZを学ぼうかというBさんにとって、「Aさんはこのように頭を使って新商品開発に成功した」という情報は残念ながらあまり価値はありそうにも思えません。 「I-TRIZはプロセスが重要である」ということです。
プロセスの豊かさは、そのプロセスを経験した者のみが理解することができることであって、それを文章や口頭で表現して、その場にいなかった人にその豊かさを伝えることは非常に難しいといえる。
I-TRIZについては、事例はせいぜい出し汁を取った後の出し汁殻でしかなく、その料理の中身を的確に伝えられる可能性はほとんどありません。
I-TRIZのポイントはプロセスにあることから記録に残すことが困難である他に、成功事例を記録として残すのが難しいもう一つの理由は、I-TRIZが最も成功したときは人々は「ごく当たり前の結論に達した」と感じる傾向があるということです。
I-TRIZの本質的な目的は、問題の状況について学習を通じてその状況を改善することであり、当然ながら「I-TRIZのプロセスを一巡する」ことではありません。しばしば成功したケースでは、I-TRIZのプロセスは行ったり来たりして混乱錯綜していて、必ずしも「きれいに」プロセスを完結しているとは限りません。
すなわち、関係者にとっては、発見があり、問題解決の方向性が見つかれば、それでI-TRIZによる活動は成功したのであり、成功事例が部外者にとって理解可能な形で記録に残せるとは限りません。
シンポジウム等で発表されるいわゆる成功事例の多くは、発表者には申し訳ないが、そのほとんどが後付けの説明であるといえます。 それでは、I-TRIZの理想的な学習法はどんなものかといえば、私の経験では以下のとおりです。
I-TRIZを適用しているプロジェクトに参加して、プロジェクトの中でI-TRIZを実践で学ぶ。続いて、本やセミナーでわからない点や理論的背景を学ぶ。プロジェクトと自習を繰り返す間に、研究会や勉強会等にも参加して、他の人と経験やノウハウを交換する。
プロジェクトを数回経験したら、自らがリーダーとなってI-TRIZでプロジェクトを運営しながらI-TRIZの初心者であるメンバーに実践でI-TRIZを教える。 まさに、野球や料理のスキル習得と同じである。
試に、私が理事を務めているNPO法人日本TRIZ協会が毎年開催している「TRIZシンポジウム」や研究会に参加し、弊社が開催している各種「実践セミナー」や勉強会に参加して、あなたのスキルアップを図ることをお勧めします。
具体的な行動を起こさなければ何も変わりません。 今年の「TRIZシンポジウム」は、9月5、6日に東京都立川市の統計数理研究所で開催されることが決定しています。4月からは、弊社の体験セミナーや実践セミナーも多数開催を予定しています。
是非、どこかのTRIZコミュニティーであなたとお会いできることを楽しみにしています。

DE(戦略的世代進化)の学び方

I-TRIZには、IPS(Inventive Problem Solving:発明的問題解決)、AFD(Anticipatory Failure Determination:先行的不具合対処)、CIP(Control of Intellectual Property:知的財産制御)、DE(Directed Evolution:戦略的世代進化)の4つの手法がありますが、その中で最も問い合わせが多いのは、DEです。
市場が成熟し多様化している今のような時代にあって、これからどのような商品・サービスを提供すればいいかがわからないからではないでしょうか。 工学的な問題の場合には、実現すべき目的が与えられて、そのための適切な手段を決定することが求められますが、関係者が目的について合意していることが前提になっています。
しかしながら、DEが取り扱う問題では、そもそも実現すべき目的を決定することが求められるため、従来の工学的問題解決の手法は使えません。 DEは次世代の商品・サービスの企画をする場合に有効な手法ですが、その手法は水泳や自転車に乗る練習をするように体で覚えるものであって、その人のスキルです。
DEは実施者のすべてに同じ結果を保証するものではありません。学校の問題と違って、正解などありません。同様に、DEのアプローチそのものについても唯一の正しいアプローチというものは存在しません。
学校教育においては、正解を導くことができるようになればその方法は習得できたことになりますが、DEの場合には、ここまで到達すればマスターできているというような地点は存在しません。
「できる」と「できない」の二つの状態が存在するのではなく、よりうまく使えるかより下手かという連続的な状態が存在するのみです。 「DEを習得したい」という相談を多く受けますが、その答えは「DEを適用するような問題解決(企画)をたくさん経験することです」というものになります。
具体的な目標としては、第1段階(初心者)として、「必要に応じて指導者の支援を受けながら、とにかくDEの適用ができる」状態を目指す。第2段階(上級者)としては、「他のメンバーを指導しながらDEを使ってプロジェクトをリードできる」状態を目指す、ということになるでしょう。
ある程度複雑な新しいスキルというものは、実際に手足を動かして参加したり、人がやるのを見たり、レッスンを受けたり、自分でいろいろ試したり、上級者の支援を仰いだり、本を読んでみたりというように、総合的に学ぶものです。
まったくの初心者が教科書や解説書を読んで独習することは、非常に困難であると思います。逆に、セミナーやワークショップで実際にDEの実施に参加した経験があれば、教科書や解説書に書いてあることも理解しやすいでしょう。
アイディエーション・ジャパンでは、皆様からの問い合わせに応えるべく、今年から新たにDEのセミナーやワークショップを開催する計画を立てています。 DEのセミナー、ワークショップの詳細については、日程が決定次第、このホームページ上でお知らせいたしますので、もうしばらくお待ちください。

I-TRIZの基本的な取り組み方

I-TRIZの基本的な取り組み方
I-TRIZ(Ideation-TRIZ)の基本ツールには、(1)複雑な問題を複数の観点から問題状況を体系的に分析するためのシステムアプローチ(多観点分析)、(2)システムあるいはその周囲に存在する何らかの特性で、システムを改良するために利用できるもの(これを資源という。)を確認するための資源把握、(3)システムに関連して有益な機能、または、有害な機能を生じさせているメカニズムを、一般化した伝達しやすい文章の形に変換することで、複雑な問題をいくつかの単純な問題に切り分けて取り組めるようにするためのプロブレムフォーミュレータ(問題状況の図式モデル化)、(4)問題の種類に応じた的確な発想のヒントを提供するオペレータシステム(発明のパターン集)、の4つがある。
これら4つのツールに共通する考え方は、世の中のモノやコトを捉える際に、独立した個々の事象に目を奪われずに、各要素間の相互依存性、相互関連性に着目し、全体像とその動きをとらえようとするシステム思考にある。一言でいえば、問題の対象をシステムとして捉えるということであるが、これに関連して使用される用語の意味を理解することが大切である。
一般にモノやコトを理解する場合には、「属性」、「性質」、「分類」、「機能」という観点で観察することが行われているが、以下、それらの意味を確認する。
「それが何からできているのか」という疑問に答えたものが、「属性」といわれるものである。わかるためには分けるということで、「構成要素」に分解することになる。それら構成要素の集合が対象となるモノ、コトということになる。
たとえば、「本」は、属性である「カバー」および「表紙」および「扉」および「ページ」および「奥付」から成り立っているという表現ができる。
「それはどんな様子なのか」という疑問に答えたものが「性質」といわれる。「性質」は一つの要素ということはなく、いくつかの「性質」によってモノ、コトが成り立っている。
たとえば、「本」は、性質である「縦の長さ」および「横の長さ」および「厚さ」および「表 紙の色」および・・・から成り立っているという表現ができる。
「それと似たようなものがあるか」という疑問に答えたものが「分類」である。ある概念の適用される範囲を「外延」というが、「分類」とはその「外延」を決めることと同じことになる。
たとえば、「本」とは、分類である「単行本」または「雑誌」または「政府刊行物」または 「百科事典」または「文庫本」または・・・にわけることができるという表現ができる。
「それでどんなことができるのか」という疑問に答えたものが「機能」である。ある概念に含まれるすべての基準や条件を「内包」というが、「機能」とは概念の意味要素であるすべての「内包」を決めることである。
たとえば、「本」とは、「文字や図画などを書き」かつ「印刷され」かつ「一冊に綴じ」かつ「知識を記録した」ものという表現ができる。
I-TRIZでは、以上のようなシステム思考(そこで使用される用語の理解を含む)を基本として、古典的TRIZの基本的な思想である(1)構成要素やその相互関係を捉える人の認識の特性を加味した考え方(たとえば、「小さな賢人」、「理想解」など)、および(2)認識内容に意味づけを与える個人や社会の価値の基準の変化のあり方を加味した考え方(たとえば、「理想性」、「技術システムの進化の法則」など)を活用して、複雑な問題を効率的に解決しようとしている。