日本標準になるTRIZ資格認定の始まり

TRIZが日本に導入されてから15年以上立った今でも、TRIZが普及していない理由についてはいろいろなところで述べてきました。
一番大きな理由は、TRIZ(ここでは、アルトシューラが第一線で研究をしていた時代のTRIZ(いわゆる古典的TRIZ)をいう)の体系のすべてを学んで実務に応用しようとすると、150~200時間ほどの時間を要するからでしょう。
日本では、「1日でTRIZを教えてください。」という企業がほとんどですから、入口で拒否されてしまうわけです。
それでも、一部の熱心なTRIZファンによって、TRIZの一部である技術的矛盾を定義して発明原理を利用する方法だけを使った手法を社内に広めようという動きが続けられてきました。
自分の問題を「矛盾マトリックス(改良する特性と悪化する特性からなる2次元表)」で表された矛盾パターンのどれに当てはまるかを決めて、そこから示唆される複数の発明原理を使ってアイデア出しを行うというプロセスが新鮮だったためか、初めての方にはそれなりに興味を持っていただけたようです。
しかしながら、このやり方では、技術的矛盾が定義できないと問題解決のヒントとなる発明原理が使えず、その技術的矛盾の定義の仕方が面倒なだけではなく、同じ問題でも人によってその定義が違ったものになることから、実際に自分の問題に適用する際に自信が持てないという人がほとんどでした。
所詮、付け焼刃はそれなりの効果しか発揮されず、発明原理を使った方々からは、「オズボーンのチェックリストを技術分野に適用できるように複雑にしただけである。」といった意見が聞かれました。
その結果、原典である40の発明原理は多すぎるとして、矛盾マトリックスを使わずに(技術的矛盾を定義せずに)、使用頻度の高い8個だけでいいとか、12個でいいといった本まで出版されました。その反対に、最初から40個全部使えばいいという意見までありました。
そんなわけで、私たちがI-TRIZの教育やコンサルを始めた頃は、一昔前のTRIZを知っている人に聞けば「TRIZは使えない」、「TRIZは二度とやりたくない」といった後ろ向きの意見しかありませんでした。
私たちの活動は、このマイナスからのスタートではありましたが、ここに来てTRIZに対する企業の取り組みが変わろうとしています。
むしろ、個人の取り組みが変わろうとしているといった方がいいかもしれません。それは弊社の体験セミナーを受けた方々の行動に表れてきています。
弊社の体験セミナーを受けられる方々のほとんどが、TRIZという名前は知っているが具体的な方法論については経験したことがないということです。
そのため、体験セミナーの参加者にとっては、I-TRIZ=TRIZという概念が形成されるため、体験セミナーでの体験がTRIZについての評価になります。
I-TRIZでは、物事をいろいろな観点で観察する「システムアプローチ」という手法と、観察結果を誰でも理解できる因果関係ダイヤグラムに表現する「プロブレム・フォーミュレーション」という手法を使うだけで、その場で自分たちの力で演習問題が解けてしまうことを体験します。
一昔前のTRIZの難しさや面倒くささは、そこにはありません。そのため、体験セミナーを受けた方々のほぼ全員がI-TRIZを実務に使ってみたいといいます。
しかし、I-TRIZの基本ソフトウェアであるIWB(Innovation WorkBench)は個人で買える値段ではないということで、実務に使うまでには至りません。
そこで、今年から、弊社では従来教育機関にだけに販売していた個人用のソフトウェアを一般にも販売することを決定しました。また、9月からはその考え方と操作方法の教育、資格認定、ソフトウェアを一体化した教育パッケージを提供することにしました。
それが、I-TRIZ(IPS)1級・2級資格認定セミナーです。具体的には、アイデア発想テクニックを学ぶIBS(Ideation Brainstorming)2級認定セミナーと、問題分析テクニックを学ぶPF(Problem Formulator)2級認定セミナーを実施します。
私たちの経験では、この教育パッケージの場合、セミナー受講後からすぐに結果が出るため、今後TRIZ資格認定の日本標準になるだろうと自負しています。
より詳しい内容を知りたい方は、今すぐ下記のURLにアクセスして、自分自身で確認してみてください。きっと、すぐに申込みしたくなるはずです(20名限定)。
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類比発想の訓練-要素の汎用化編

まったく新しいものをゼロから考えることは難しいものです。
私たち大人は、年を重ねるにつれて現実の具体的な情報を少しずつ貯め込んできているため、思考の自由度が抑制されています。いわゆる、固定概念に捉われるとか、心理的惰性に流されるとか、いわれる状態に陥っているわけです。
そのため、何か新しいものを考えようとする場合には、既存のもの、知っているものを手がかりにして、そこから連想した方が考えやすいことになります。
日常生活の中で起こる「ほう!」、「あっそうか!」といった「気づき」の瞬間は、日々の暮らしに充実感を感じられるときです。生きている価値とは、このような日々の中で起きる変化によって自分自身が成長しいく状況を感じ取ることであるといえそうです。
私たちはこのような日々の充実感をそのままにしてしまいがちですが、そのときの「気づき」を活かしてみることを考えてはどうでしょう。これをその都度行うことで、類比発想の訓練ができます(そのときに時間がなければ気づいたことをメモしておき、別の機会にじっくり考えることでもよい)。
活かすとは、その物事を別のことに応用することです。気づいた内容を抽象化して、他の物事に当てはめて見る。そうすることで、まったく異なる分野にも似たメカニズムがあることを発見することができます。
発見したメカニズムが他の多くの事例についても同様に適用できることが証明できれば、それは一つの普遍的な法則として、一般的な問題解決に適用できる知識になるでしょう。
「技術システムは進化するにつれて、より便利で様々な必要を満足させることができるように、汎用的で多目的なものに変わっていきます。この傾向が進むにつれて、システムは変化し易いものになります。これは、汎用的であることは柔軟性に富んで制御性に優れることを必要とするからです。」
以上の説明は、I-TRIZの進化のパターンの一つである「要素の汎用化」についてのものです。
実は、この「要素の汎用化」の概念は、具体的なものを観察し、そこから一般化した概念を作り上げるといった抽象化思考を行った後、他の分野の具体的な物事にそこで発見した一般的概念を適用するといった、類比発想のプロセスそのものの説明にもなっています。

「TRIZが使えない」といわれる理由

1996年に英語版のTRIZのソフトウェアが日本に導入されてから16年が経過しましたが、残念ながら研究開発の現場でTRIZが利用されている状況にありません。
企業からの依頼でI-TRIZの説明に伺うことがありますが、そのほとんどのケースで、窓口の方から「TRIZは懲り懲りだ」、「TRIZは二度と使いたくない」といった社内事情の説明を受けます。
残念なことですが、これが現在のTRIZの現実です。
しかしながら、TRIZという言葉は知っているということですので、それとの比較でI-TRIZを説明することでI-TRIZの良さがわかっていただけるという、いいこともあります。
「TRIZが使えない」という場合のTRIZは、創案者であるアルトシュラーが第一線で研究していた時代のいわゆる「古典的TRIZ」のことです。
古典的TRIZは複数の手法の集まりであって、それらの手法毎に別々のルールからなる問題定義をすることで、別々の問題解決のヒントを手に入れて、アイデアを創出するといった仕組みになっています。
そのため、古典的TRIZを使いこなすには、使い方の異なる別々の手法を覚えなければならず、実践するまでに100~150時間の訓練が必要であるといわれています。
韓国のサムスンのようにトップダウンでTRIZを導入することが決定されるような場合は例外であって、日本の企業が研究者や技術者にこれだけの訓練時間を確保することはありえないでしょう。
日本では、古典的TRIZの一部の手法のみ導入した企業がほとんどです。その手法は異なる二つの特性を同時に満足することができない「技術的矛盾」を定義して発明原理(40種類)という解決ヒントを使ってアイデアを創出するものです。
縦軸に改良したい特性(39種類)、横軸に悪化する特性(39種類)を配置した「矛盾マトリックス」という一覧表を使って、対象とする問題のパターン(特定の改良したい特性と特定の悪化する特性の組合せ)の種類によって最適な発明原理(1~4個)を手に入れるという操作を行うものです。
一見すると、ゲーム感覚で解決ヒントを探すことになるので、導入当初は研究者、技術者にも好評でした。
しかし、実際の問題に適用しようとすると、何を改良する特性とし、何を悪化する特性とするかは、問題の捉え方によっていろいろ考え得ることになり、結果的に使用する発明原理が10~20個にもなることがあります。そのため、客観性がなく時間がかかるとの批判が出ました。
また、ようやくたどり着いた発明原理にしても、あらゆる技術分野に共通して使用できるヒントということで、その表現が抽象的すぎて意味がよくわからない、との批判も出ました。
最後は、矛盾マトリックスを使用する面倒な操作を省略し、最初から発明原理を使うことになりました。それも、40個では多すぎるということで、使用頻度の高い8個または12個の発明原理だけを使うといった方法が広まっていきました。
その結果、TRIZは、時間がかかる割には、オズボーンのチェックリストを使ってブレーンストーミングを行うアイデア発想とそれほど変わらない成果しか得られない、との評価が与えられてしまいました。
骨抜きにされた古典的TRIZに対する評価としては、当然のことでしょう。
古典的TRIZには、複数の特殊な問題定義の仕方を習得しなければならないという入口の壁と、抽象的な解決ヒントを使って具体的なアイデアを類比発想(強制発想)しなければならないという出口の壁があるということです。
I-TRIZは、どんな問題に対しても一種類の一般的な問題定義の方法を使用しますので、入口の壁はほとんどありません。
そもそも問題の分野には使える知識がない難問を解くことがTRIZを使う目的になっているため、TRIZでは解決ヒントとして他の分野の知識を使うために類比発想をします。
I-TRIZも類比発想することは同じですが、この出口の壁を低くする工夫があります。

知識だけで解けない問題を解く

学校の試験問題は予め正解が決まっていて、知識があれば(正解を知っていれば)解けるようになっています。そのため、学校でよい成績を取るには、よく勉強して知識を高めておくことが必要になります。
しかし、社会に出てからぶつかる問題は、学校で勉強した知識では解決できないものが多いものです。そもそも何が正解かがわからないものがほとんどです。また、誰も経験したこともないような個人的な悩み事も、知識だけでは解決できるものではありません。
社会に出たら、知識だけでは解けない問題を解かなければならない状況がたくさんあるにもかかわらず、私たちはこのような知識だけでは解けない問題を解く方法を学校で教えてもらっていないのです。
そのため、世の中には多くの情報(知識)が氾濫しているにもかかわらず、私たちは多くの悩みを抱えているという状況にあります。
知識だけで解けない問題を解くのにどうしたらいいのか?
先輩や上司に相談すると、「知恵を出しなさい」と教えてくれます。そこで、知恵の出し方を教えてもらおうとすると、「自分で体験するしかない」といわれます。
実は、先輩や上司も知恵の出し方を知らないのです。なぜなら、知恵は知識と違って、意識的に自分の頭から引き出せるものではないからです。
知恵とは、無意識な状態でひとりでに出てくるものであって、出そうと思っても出せるものではないのです。
発明を生み出す手法であるNM法を創案された中山正和氏によれば、意識的に出すことのできない知恵がいつ出るかというと、「好きなことをしているとき」か「ピンチになったとき」であるといいます。
いずれも「そのことしか考えていない」状態であるといえます。
つまり、知恵を出したかったら、その問題のことだけを考え続けることです。知恵が出ないのは、その問題のことだけを考え続けることができない状況が生じていると考えられます。具体的には、気が散って、問題以外のことを考えている場合があげられます。
最も問題に集中できる環境とは、好きなことでピンチになることといえます。具体的には、「好きなことを仕事にし、明確な目標を設定して、時間的な制限を課す。」といったことが考えられます。
しかし、現実には、好きなこととはいえ、どう考えてもよいアイデアが出ないで苦しむこともあります。できれば、ピンチになって苦しむことなしに問題を解決したいものです。
実は、私がこの世界(創造工学の世界)に飛び込んだ理由は、その方法が知りたかったからです。

苦しまずに問題を解決するためのヒント

苦しまずに(ピンチにならないで)済む問題解決法を考えてみましょう。
一般に、簡単には解けない問題を解決するには、まず、問題解決に役立ちそうな情報を書籍で調べたりインターネットで検索したりして集めます。
次に、集めた情報についての知識を自分の頭の中から記憶を引き出し、その情報をある法則に照らし合わせて判断したり(演繹)します。
簡単には解けない問題の場合には、既存の法則では歯が立たないことがあるため、さらに進んで、たくさんの情報からある法則性を見つけること(帰納)を繰り返して、あれこれ考える(分析する)ことになります。
最終的には、それまでの分析結果に基づいて、決定した問題解決策を実行するための行動計画を作ることになります。
以上のように、問題解決の工程では、情報、知識、分析、計画といった、コトバを使った思考が行われます。
コトバを使ってあれこれ考えても問題が解けない場合であっても、なお考え続けていると、あるとき「ハッ」とあることに気がつく(仮説設定)ことがあります。
これが今までにない解決策が得られる瞬間です。
あることに「ハッ」と気づくのは、環境適応性(ホメオスタシス)といわれる人間の「いのち」に組み込まれた進化のプログラム(動物の知恵)の働きであるといわれています。
ピンチを脱するために自動的に過去の経験をイメージとして引き出して(直観)これを自分の行動に役立てようとするために起きる現象です。これを、発明技法であるNM法を創案した中山正和氏は「いのちの知恵」といいます。
ここでいう直観とは、イメージで考えることにあたります。
気づくのはイメージであって、コトバではありません。したがって、気づいたイメージに直結するコトバが論理的思考によって分析され、その論理的可能性が検討されて問題解決のためのアイデアになります。
逆に考えると、気づいたイメージを論理的なコトバに変換できなければ、「何をどうすればいいのか」といった提案はできない(アイデアにはならない)ということです。
「手で考える」ということが、この谷間を埋めることに役立ちます。たとえば、図表やスケッチを描いたり、簡単な工作をして気づいたイメージがうまくいくかどうかを確認します。
私の場合には、この「手で考える」ことが多いといえます。
さて、頭の働き方からすると、「いのちの知恵」を使えばいいことは分かりましたが、そのためにピンチになるのは嫌だということです。
そこで、「いのちの知恵」に頼らずに、過去の経験の記憶の中から問題解決に役立つイメージを意思的に引き出せないものでしょうか。それが可能であれば、苦しまずとも知識だけでは解けない問題を解決することができるようになります。

人や組織の問題を因果関係ダイヤグラムを使って解く

アイディエーション・インターナショナル社が開発した「プロブレム・フォーミュレーター」では、システムの状況を表現するために、システムの中の有益機能と有害機能とを因果関係でつないだ因果関係ダイヤグラムを作成することで、問題解決へ網羅的な指針が得られます。
ダイヤグラムの構成要素としては、データを記入するボックスと、ボックスとボックスをつなぐ矢印の2種類しかありませんので、初めての方でも少し練習すれば作成することができます。
ボックスには、機能、動作、作用、プロセス、操作または状態、あるいは、システムまたはシステムの一部の特徴を記入します。矢印は根元が原因、矢の先が結果になるようにつなぎます。
システムには物だけではなく人間や動物も含まれます。自然界における食物連鎖や生態系も生命の維持を目的としたシステムと考えることができます。国や地方自治体の運営、企業活動、大学教育など、人が組織として行う活動もシステムとみることができます。
したがって、人や組織に関する問題を因果関係ダイヤグラムに表現すれば、その問題の根本原因を見つけ出して、本質的な問題解決を図ることも可能ということです。
ところで、部分最適ではなく全体最適を求める制約条件理論(TOC:Theory of Constraints)では、人間が介在するシステムが抱える様々の問題は、その因果関係をたどって行くと、もっと根本的な限られた原因(システムの能力を制限している制約)によって引き起こされている、といいます。
制約条件理論は、生産管理の問題の場合、設備の能力などの物理的な制約よりも、規則や習慣などの方針制約が多くあることを突き止め、その方針制約の問題を解決する手法として「思考プロセス」を開発しました。
TOC思考プロセスでは、現状分析段階で、システムの問題点の原因や理由から選ばれた複数の好ましくない結果(有害機能)を原因と結果の因果関係でつないだ因果関係ダイヤグラムを作成します。TOC思考プロセスで作図したダイヤグラムは、プロブレム・フォーミュレーターで作図したダイヤグラムとよく似たものになります。
TOC思考プロセスでは行政に関する問題をたくさん解決していることが公表されています。したがって、人や組織に関する問題をプロブレム・フォーミュレーターで作成し、その問題を解決することが可能なことは理解いただけるでしょう。
TOC思考プロセスでは、問題を解決する際に対立解消図(別名「クラウド」という。)を作成し、そこで表現されている対立を解消するアイデア(別名「インジェクション」という。)を考えることになります。
対立を解消するアイデアは、対立解消図を作っている論理構造に隠れた仮定・前提を明らかにし、その仮定・前提を否定することで得られます。
プロブレム・フォーミュレーターで作成した因果関係ダイヤグラムで表されたシステムの問題は、根本原因に関係する矛盾(黄色ボックスに関係した部分)を見つけ出して、その矛盾を解決することで本質的な解決アイデアが得られます。
矛盾を解決するアイデアは、(1)相反する要請を空間で分離する、(2)相反する要請を時間で分離する、(3)相反する要請を対象全体とその部分とで分離する、(4)相反する要請を条件・特性で分離する、といった分離の原則を使って考えることになります。

「オペレータ」という曲者

「オペレータ」というと、一般には機械やコンピューターの操作者を意味します。
I-TRIZで「オペレータ」とは、問題解決に役立つ解決ヒントのことをいい、別名「発明パターン」ともいいます。
TRIZの知見によれば、過去になされた高い水準の発明を分析したところ、全く同一の基本的問題(矛盾)が様々な技術分野で何度も繰り返し取り上げられ、そして解決されてきたことが明らかになりました。
また、同じ発想に基づく基本的な解決策が何度も何度も、時には長い年月を隔てて、繰り返して使用されていることもわかりました。
このように繰り返して使われる解決策の原理となっている考え方を、I-TRIZでは「オペレータ」と呼んでいます(古典的TRIZの発明原理、分離の原則、標準解、進化の法則、効果集などが一つに集約され新たに体系化されたもの)。200万件以上の特許の分析から500を超える「オペレータ」が抽出されました。
たとえば、「場の強化」というオペレータは、「物体を密閉した容器に入れ、容器の内部の圧力を徐々に高くしてゆき、その後一挙に減圧する。急激な減圧によって物体の内部と外部の圧力に格差が生じ、これによって物体が爆発的に割れる。」というものです。
「場の強化」というオペレータを使うと、たとえば、(1)ピーマンの缶詰を作る際のピーマンのヘタと種の部分を取り去る作業が自動的に行える、(2)掃除機のフィルタに詰まった小さなゴミを簡単に取り除くことができる、(3)人工ダイヤモンドで工具を作る際に素材に入っている亀裂部分で結晶を分割することで亀裂のない結晶を手に入れる、といったように異なる技術分野の課題を実現することが可能になります。
TRIZの最大の特徴は、I-TRIZの「オペレータ」のように、先人の知恵が体系立てて整理されていることです。
日本の創造技法である等価変換理論やNM法も等価な参考例やアナロジーを使って問題解決を図りますが、参考例やアナロジーはその都度自分で過去の記憶を思い出すか、技術情報(特許情報を含む)を検索して手に入れなければなりません。
そのため、等価変換理論やNM法も、残念ながら技術開発の現場で使用されている例はほとんどなく、教育訓練レベルでの使用に留まっているのが実情です。
I-TRIZの基本ソフトであるIWB(Innovation WorkBench)では、問題の情報把握の段階で、「類似の問題を持つ他のシステム」という項目を設けています。
ここでは、取り組んでいる問題と類似の問題を抱えた他のシステムの見つけることを問題解決者に要求しています。
類似の問題を抱えた他のシステムが見つかったら、引き続き(1)その問題は解決されましたか?そうだとすれば、どのようにですか?、(2)その解決策をあなたの問題に適用できますか?それが不可能だとしたら、なぜですか?、(3)あなたの問題にその解決策を適用するためには、付随する二次的な問題を解決しなければならないとすれば、その問題はどんな問題ですか?、という問いに答えることで、取り組んでいる問題の解決策を得ようとします。
実は、この思考過程が「オペレータ」を使用する際の頭の使い方を述べているものといえます。
つまり、「オペレータ」という先人の知恵の膨大な知識ベースが使いこなせるかどうかは、上記の問いに答えるような考え方(これを類比思考という。)ができるか否かにかかっています。
I-TRIZで最も時間をかけて訓練する必要があるのは、この1点です。その意味でI-TRIZの曲者といえます。
【参考】
類比思考の訓練には、等価変換理論やNM法が最適です。いずれも、アイディエーション・ジャパンでお教えすることができます。必要があれば、いつでもご相談ください。
お問い合わせはこちら

論理的に思考し、かつ自由に発想する

I-TRIZは「論理的に思考し、かつ自由に発想する」仕組みを備えた方法論であるといえます。
I-TRIZの基本的な思考プロセスのうち論理的に思考する部分は、(1)システム階層(上位システム→システム→下位システム)、機能(入力→機能→出力)、問題(原因→問題→結果)、時間(過去→現在→未来)といった多くの観点で問題状況を分析する「システムアプローチ」と、(2)分析結果を因果関係ダイヤグラムで表現する「プロブレム・フォーミュレーション」です。
論理的な思考から自由な発想に移るアイデア発想の段階では、「プロブレム・フォーミュレーション」で作った因果関係ダイヤグラムから問題解決のための課題を指し示す問題文(指針)が得られます。
自由に発想する部分では、各指針に対応したシステムの変更案(アイデア)考える際に、先人の知恵を体系的に整理した知識データベースの中から的確な推奨文(ヒント)得られる「オペレータ・システム」を使います。
また、自由に発想する部分では、「オペレータ・システム」で提示される複数の推奨文を切り換えながらアイデア発想を促す「アイディエーション・ブレーンストーミング」を行います。
一般に、創出されたアイデアのうちのどれかが直接発明的問題の解決に役立つことはほとんどありません。
発明的問題のような複雑な問題の場合には、問題の様々な側面にそれぞれ対処する複数のアイデアを組み合わせることが必要になります。つまり、私たちが求める解決策とは、複数のアイデアを組み合わせたものになります。
複数のアイデアを組み合わせるには、「既存システムの組合せ」や「複合システム・多重システムの構築」というオペレータを使うことができます。
複数のアイデアを組み合わせるには、事前に創出されたアイデアを同一の機能に関連するアイデアのグループや同一の装置、部品、要素に関するアイデアのグループに分類をすることが必要になります。
複数のアイデアの分類ができたならば、「同一機能のシステムの組合せ」、「反対機能のシステムの組合せ」、「同種の構成要素をシステムに合成する」といったより具体的なオペレータを使うことができます。
ほとんどの解決策は二次的問題(解決策を適用することにより発生すると考えられる新たな問題)をかかえています。解決策を実行するには、この二次的問題を解決しなければなりません。
二次的問題を解決するには、当初の問題解決と同じ手順を辿ればいいのです。二次的な問題の解決は、多くの場合、当初の問題を解決するよりも容易です。
二次的問題の内容が具体的な場合には、「標準問題」というオペレータを使うことで、比較的簡単に解決できる場合があります。
複数のアイデアを組み合わせる場合や二次的問題を解決する場合には、各種のオペレータを使って自由に発想することの他に、創出された解決策を評価するための論理的な思考が必要になります。

TRIZの中の創造性

以前にも話題にしましたが、「TRIZのどこが創造的なのか?」という問題について再考します。
TRIZは、アルトシュラーが世界中の20万件以上の特許を調査し、その中から発明の名に値する4万件の特許を選んで精査して築いた理論的基礎により、体系的で段階的な手順からなる問題解決ツールが構築されました。
TRIZの問題解決ツールは、(1)最良の解決策の存在する領域を指し示すガイド、(2)技術分野に限定されることのない一般的な発明のパターン、(3)多数のイノベーションの実例、等の先人の知恵を参照して、それらからの類比発想によって発明的問題の解決をしようとするものです。
そのため、問題解決者個人の創造性を開発するといった点に重きをおいているとは言いにくい面があります。
一般的な回答をするならば、TRIZでは、(1)心理的惰性を排除すべく他の技術分野の観点からの検討を積極的にすすめることと、(2)問題解決ツールを使った活動を重ねることで、創造性が徐々に高められていくということでしょうか。
ここでは、別の考えを披露します。
そのヒントは、TRIZの教科書としての位置づけであるARIZの中にあります。
ARIZ85Cの第8部「解決策の活用」では、問題解決によって得られた解決策がもつ資源を最大限に活用することを行います。第8部は以下の3つのステップから構成されています。
ステップ 8.1. 解決策でシステムが改良されることによって、システムを内蔵する上位システムはどのように変化しなければならないのかを明らかにします。
ステップ 8.2. 改良されたシステム(あるいは上位システム)を何らかの新しい用途で使用することができないか確認します。
ステップ 8.3. 解決策を他の問題解決に活用します。
これにより、当初の問題解決で発見された新たな発明パターンを手がかりとした新しい「理論」の構築につながる可能性を探ることをします。
ARIZ85Cの第9部「問題解決プロセスの分析」では、問題解決の結果から、その問題解決の流れを徹底的に分析することで、データベースに新たな情報(標準解、解法、物理的効果集など)を追加することを検討します。第9部は以下の2つのステップから構成されています。
ステップ 9.1. 実際の問題解決の流れと理論との比較
ステップ 9.2. 問題解決の結果とTRIZの情報ファンドの資料との比較
以上のように、ARIZ85Cの第8部、第9部の作業を行うことで、問題解決者は問題解決によって得られた解決策を一般化するための抽象的思考に取り組むことになります。
抽象的思考をすることで、頭の中のぼんやりとしたイメージや傾向といった抽象的なパターンを抽出し、それを次の問題解決に応用することで新たな連想を生み、似たものにリンクを張る可能性を高めることにつながります。
つまり、ARIZ85Cの第8部「解決策の活用」、第9部「問題解決プロセスの分析」を実施することで、「気づきやすい、思いつきやすい頭」になれるということです。これが、TRIZの最も創造性開発に寄与できるところです(ARIZの中にそのようなシステムを備えていることがTRIZの創造的なところです)。
ちなみに、創造技法の一つであるNM法では「創造とは発想と、それを有効化することを含めたもの」と説明されています。
抽象的思考は創造の要素である「発想」に対応するものです。発想によって得られた抽象的なパターンを具体的なものへ変換するための論理的思考は「有効化」に対応します。
「有効化」に対応する論理的思考は、研究者、技術者は自分が関係する分野については得意とするところですから、格別問題ではないでしょう(もちろん、有効化の段階でも小さな「発想」は必要になりますが)。

未来制御という発想

前回、未来に起きる事象の発生を予め知った後で、その事象を自らの事業の発展に結び付けるといった積極的な対応をすることを「未来制御」と呼ぶことにしました。
また、製品や工程などの技術システムについて、可能性として結びつくすべての危険、または有害な事象を事前に明確にし、回避するための体系的な手法である不具合予測(FP:Failure Prediction)は、未来制御をするための基本的な手法であるといいました。
製品の開発や使用に関連して遭遇する技術的な難問を克服する目的で使用するための発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)の場合と、製品や工程などの技術システムを新しい世代のシステムへと進化させる企画の立案作業を支援する戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)の場合には、新製品や新企画のリスク管理の意味でそれらのコンセプトを創出した後の工程で不具合予測(FP)を使います。
他社特許の回避、無効化の検討の他、特許の侵害と回避からの保護を強化して自社の知的財産の価値を増加させるための知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)の場合には、特許出願しようとする発明に潜在する不具合とその発生メカニズムを予測して、より強力な発明を創出する(これを発明強化という。)際に不具合予測(FP)を使用します。
アイディエーション・インターナショナル社の発明的問題解決(IPS)、戦略世代進化(DE)、知的財産制御(CIP)における不具合予測(FP)の位置づけは、以上のとおりです。
私は、不具合予測(FP)は未来制御のツールであるとの考えから、発明的問題解決(IPS)のアイデア発想の段階で使用することを提案します。
製品の開発や使用に関連して遭遇する技術的な難問を克服する解決コンセプトを考える場合に、その解決コンセプトが顧客の要求する品質が十分に満されることを保証するものであることが必要です。
解決コンセプトを実装した製品やサービスが顧客に受け入れられなければ(売れなければ)、新製品や新サービスは完成したけれどもその開発は失敗したということです。
開発を成功させるには、開発した新製品や新サービスの品質が保証できる解決コンセプトを完成させなければなりません。
その取り組みの一つが、新製品等の開発に当たり顧客の要求する品質を基に設計品質を決定し, これを実現するためその構成機能・部品の品質を細部部品や工程にまで体系的に図式化して展開し, 製造開始前に品質保証を行おうとする品質機能展開(QFD:Quality Function Deployment)です。
ここで、「顧客の要求する品質」を決めるには、顧客の声を集めて、様々な使用シーンを描いて、顧客の要求を機能表現の形でまとめることが必要ということです。
しかしながら、市場に製品やサービスが溢れていて新製品や新サービスがなかなか受け入れられない時代に、顧客の声を聞くことが正しいかどうか疑問です。
たとえば、iPod、iPhon、iPadは、顧客の声を聞いて開発したものではありません。むしろ、「こういう製品を望んでいるのではないですか?」と、開発者側から顧客へ提案したものです。
つまり、市場に製品やサービスが溢れている時代には、開発者側から未来品質を保証した製品やサービスを提案するといった考え方を取るべきではないでしょうか。顧客は新たに提案された製品を見てそれが欲しかったとはいえますが、市場に存在してしない自分が欲しいものをいうことはできません。
そこで、未来に起きる事象の発生を予め知った後で、その事象を自らの事業の発展に結び付けるといった積極的な対応をする「未来制御」という発想を使います。
未来制御による製品開発に当たって重要なことは、製品に関する未来品質だけを考えるのではなく、製品を使用する際の未来品質をも考えることです。
具体的には、(1)従来品や新たに考えた製品コンセプトについて、製品自体の不具合と製品を使用する際の不具合(環境や行動との関係で生じる不具合)を予測し、それらの不具合を是正するアイデアを考えて、(2)成功する可能性の要素(狙いの明確性、必要性、機能性、利便性、使い勝手、安心感、意外性(面白味)、感動度合い)がどの程度あるかを確認することです。