オペレータを使って社内にI-TRIZを普及させる方法を考える(2)

「どうしたらTRIZを社内の研究者、技術者に普及できるだろうか」という問題をI-TRIZで簡単に解いてみる試みの2回目です。
I-TRIZの基本ソフトウェアであるIWBの最初の「問題の情報把握」の工程には、「状況の要約」という欄から見ることのできる「標準問題」の項目をクリックすると、以下のような17項目のリストが表示されます。
「(1)生産性を改善する、(2)利便性を改善する、(3)信頼性の向上、(4)機械的強度を改善する、(5)製造精度を改善する、(6)コストを低減する、(7)単純化、(8)重量を軽減する、(9)エネルギー消費を低減させる、(10)浪費時間を減少させる、(11)
機能効率を向上させる、(12)変形、ずれ、衝撃、振動、破壊を抑制する、(13)騒音を低減させる、(14)摩耗を低減させる、(15)汚染を軽減する、(16)過熱を回避する、(17)環境との相互作用を減少させる」
今回は2番目の「利便性を改善する」をクリックします。すると、「システムをより使い易くする方法を見つけるには、以下のオペレータに沿って考えてください。」という推奨文に続けて、「(1)有取り外し可能(モジュール化)、(2)セルフサービス、(3)模型・コピー、(4)使い捨て、(5)視覚特性を変える、(6)透過性を変える、(7)媒介物質、(8) 膨張する構造、(9)特性の最適化、(10)道具を人に合わせる」という項目の記載と、その下に「輸送を容易にする方法」のオペレータとして「(1)重い部分と軽い部分に分割、(2)重量物の移動、(3)特性の最適化、(4)膨張する構造、(5)重量の補整1、(6)重量の補整2、(7)他の力による補整、(8)ある物を活かす」が記載されています。さらに、その下に「関連項目」として「(1)物質の一時的使用」という項目の記載が表示されています。
最初に記載されている「有取り外し可能(モジュール化)」をクリックすると、「対象物を取り外し可能な方法で作ってください。可能であれば、対象物(一部、または全体)を既存のものではなく標準的なモジュールで作ってください。」という解説と、「有取り外し可能(モジュール化)」に関連した「(1)グーテンベルクの発明、(2)組立式トラック、(3)基準となる機械部品」という過去の具体的事例を参照することができます。
このオペレータによれば、「I-TRIZの全思考プロセスを習得する前に、I-TRIZの標準的なモジュールである、(1)システムアプローチ(多観点分析)、(2)プロブレム・フォーミュレーション(因果関係ダイヤグラムの作成)、(3)利用可能な資源の把握、(4)問題発生のメカニズム分析(不具合分析)、(5)オペレータ・システム、(6)アイディエーション・ブレーンストーミング、(7)二次的問題の解決(実装性の向上)、(8)実行時の不具合予測と予防、(9)進化のパターン/ラインの適用、のうちから取り組む問題に応じて有効と思われるもののみを選択的に使用することも考えてみてください。」といった使い方が提案できます。
I-TRIZの標準モジュールはどれも単独で使用しても有用性の高いものですので、即効性を優先する場合には、一つの手であることは確かです。自分に合った標準モジュールを使いこなすことは悪くありません。
実際に私たちのお客様には、たとえば、システムアプローチを単独で使用しただけで具体的な成果を上げているお客様も多くいらっしゃいます。

オペレータを使って社内にI-TRIZを普及させる方法を考える(1)

私たちへの質問の多くは、「どうしたらTRIZを社内の研究者、技術者に普及できるだろうか」というものです。今回は、この問題をI-TRIZで簡単に解いてみようと思います。
I-TRIZの基本ソフトウェアであるIWBの最初の「問題の情報把握」の工程には、「状況の要約」という欄があります。
ここでは、「あなたが取り組んでいる状況を簡潔に説明してください。」という質問文が表示されています。
さらに、「次のIWBツールが使えないか考えてみてください。」という提案文が記載されており、その最初に「標準問題」という項目とこの項目にリンクされた標準問題用のオペレータが控えています。
自分が取り組む問題についてその課題が明確である場合には、問題解決者はいきなりI-TRIZの強力なオペレータが使える機会が与えられています。
時間のかかる「システムアプローチ(多観点分析)」に取り組む必要はありません。面倒な「プロブレム・フォーミュレーション(因果関係ダイヤグラムの作成)」に取り組む必要もありません。
課題がはっきりしているような問題は、標準問題用のオペレータを使ってさっさと解決してしまいましょう。そして、本当に難解な問題の場合には、I-TRIZの全プロセスを使いましょう。
「標準問題」の項目をクリックすると、以下のような17項目のリストが表示されます。
「(1)生産性を改善する、(2)利便性を改善する、(3)信頼性の向上、(4)機械的強度を改善する、(5)製造精度を改善する、(6)コストを低減する、(7)単純化、(8)重量を軽減する、(9)エネルギー消費を低減させる、(10)浪費時間を減少させる、(11)
機能効率を向上させる、(12)変形、ずれ、衝撃、振動、破壊を抑制する、(13)騒音を低減させる、(14)摩耗を低減させる、(15)汚染を軽減する、(16)過熱を回避する、(17)環境との相互作用を減少させる」
自分が取り組む問題の課題がこれらのいずれかに関係するものであれば、直接その項目をクリックすることで、課題を実現するためのヒントを見ることができます。
たとえば、「生産性を改善する」をクリックすると、「生産性を改善するには、以下の推奨事項(オペレータ)を検討してください。」という推奨文に続けて、「(1)並列処理、(2) 処理の特殊化」という項目の記載と、その下に「関連項目」として「(1)処理効率の改善、(2)処理速度の向上」という項目の記載が表示されています。
最初に「(1)並列処理、(2) 処理の特殊化」のいずれかまたはその両方の項目をクリックして、それぞれのオペレータを参照することにします。「関連項目」は、このオペレータが使えそうだという感触を得た場合であって、かつより具体的なアイデアを得たい場合に使用します。
「並列処理」のオペレータでは、「同時に並行して実行できる複数の処理に、プロセスを分割することを検討してください。」という解説と、「並列処理」に関連した「牛の効果的な繁殖」という過去の具体的事例を参照することができます。
「処理の特殊化」のオペレータでは、「専門家や特殊装置によって実行する複数の処理に作業を分割することを検討してください。」という解説と、「処理の特殊化」に関連した「革新」という過去の具体的事例を参照することができます。
ちなみに、「処理の特殊化」の「革新」という事例では、「組立ラインに応用された分業という概念は、産業に革命をもたらしました。」という導入文と、「発明による技術問題の解決理論(TRIZ)は、革新をもたらします。TRIZの専門家は、このコンピュータをベースにしたシステムを使い、問題解決の新しいアプローチを発見することができます。TRIZの訓練の受けたIdeation社の専門家は、顧客の直面する問題を深く掘り下げて、革新的な解法を提示します。」という説明文が記載されています。
すなわち、「(1)並列処理、(2)処理の特殊化」のオペレータからは、I-TRIZを社内の研究者、技術者に普及させるには、「本を読んだり、論文を読んだり、セミナーに参加したりして、自分たちでI-TRIZを人に教えられるまでに学習を積むも大切ですが、それと並行して、I-TRIZの専門家の助けを借りて、研究者、技術者自身が抱えている難問を自分たちの力で解いてしまうといった体験をすること。」というアイデアが得られます。
なぜなら、自分たちがI-TRIZを人に教えられるまでになるのを待っていたら、実務に試行するまでに長い時間が過ぎてしまいます。仮に、試行できる段階になったとしても、研究者、技術者から出る質問に導入担当者が即答するのは難しいのではないでしょうか。
そのような状況が何度か続くと、研究者、技術者はTRIZに対して難しいという観念を持つようになると同時に、TRIZも導入担当者も信頼を失うことになります。
また、発明活動といった技術と技能の両方に関係するスキルは、早いうちに成功体験をすることが重要です。
I-TRIZを使うことで、「自分たちが抱えていた難問を自分たちの力で解けた。」という成功体験をしてしまえば、後は導入担当者が何もしなくとも、研究者、技術者は次から次へ新しい問題にI-TRIZを適用してみようとするはずです。
初めて、自転車に乗れたときの感動を覚えていますか?初めて、泳げるようになったときの感動を覚えていますか?発明も同じです。技能を身につけるには訓練が必要なのです。
今回は、「標準問題」の中の「生産性を改善する」というオペレータだけを使いましたが、いかがでしたでしょうか。

発明的問題解決と不具合分析と不具合予測

不具合分析(FA:Failure Analysis)とは、製品・サービスに関して既に起きてしまった不具合のメカニズムを解明し、その再発防止策を検討するための手法です。
不具合予測(FP:Failure Prediction)とは、未だ上市していない製品・サービスの潜在的な不具合を予測し、その未然防止策を検討するための手法です。
開発・設計に関していえば、従来品や現行品の改良を行う際に不具合分析(FA)が必要になる場合があります。
すべての不具合、事故、欠陥、または有害な作用には、少なくとも一つの根本的原因があります。
そのため、取り組んでいる問題の原因に関する既知の仮説、想定されていること、問題と何らかの形で相関性のある事象または状態を観察することで問題の発生メカニズムを明らかにしなければなりません。
問題発生メカニズムがわかれば、問題の原因や問題から生じる望ましくない結果を排除することで、問題を解決する(改良案が完成する)ことになります。
しかしながら、そもそも問題発生のメカニズムがわからないために問題が解決できないことが多いわけです。
そこで、発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)の基本ソフトであるIWB(Innovation WorkBench)には、そのような複雑な問題にも対処できるように、問題に関する原因と結果を明らかにする問題分析プロセスの中に不具合分析(FA)の簡略版が組み込まれています。
問題発生メカニズムが明らかになり、問題を解決できるアイデアが完成した場合には、そのアイデアを実際の製品・サービスに適用することになります。
このアイデアの実装に関して考えなければならい問題もあります。それは、新しいアイデアを実装した新製品・新サービスの信頼性の問題です。
顧客が新製品・新サービスを使用した際に、不具合が発生しないとも限りません。それを防止するための予防策を講じておかなければなりません。
この段階では、将来生じるかもしれない不具合を予測し、その予防策を検討することが必要になります。
そこで、発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)の基本ソフトであるIWB(Innovation WorkBench)には、そのような実装段階で問題になる二次的問題にも対処できるように、最終的な解決策の評価プロセスの中に不具合予測(FP)の簡略版が組み込まれています。
なお、不具合分析(FA)、不具合予測(FP)について専門的な検討が必要であれば、それぞれ完全版のソフトウェア(プロ仕様)が別途用意されていますので、そちらを使用することをおすすめします。

考えるTRIZとしてのI-TRIZの仕組み

TRIZが他の創造理論・技法と違う点は、膨大な先人の知恵を体系的にまとめ上げた知識ベースを持っていることでしょう。
したがって、TRIZを使いこなすということは、いかにTRIZ特有の知識ベースを効率的かつ効果的に使うかにかかっているといえます。
ところで、世界的な傾向でいえば、現在TRIZは大きく二つの方向に向かって進化しています。
一つの方向は、GEN3パートナーズが推進しているものであって、知識ベースを検索することによって解決策を求めようとする方向です。これは、「今抱えている問題は既にどこかで解かれている」ことを前提とし、他の分野の解決策を自分の問題に適用すればよいという考えによるものです。いわば「検索するTRIZ」を指向するものです。
そのため、意味検索エンジンを搭載したG-FINというソフトウェアでは、過去の技術情報はもちろん最新の技術情報についても逐次検索できるよう日々そのデータベースが更新されています。
これにより、最新の他分野の具体的な解決策を自分の問題解決に役立てることができるようになっています。
もう一つの方向は、アイディエーション・インターナショナル社が推進しているものであって、事前に準備されている質問に答える形で思考を前進させていくことで解決策を求めるようというものです。
問題の分析段階では「問題状況質問票(ISQ:Innovation Situation Questionnaire)」の各項目に答えることで、一方でシステムおよびその周辺にある有望な資源を見い出し、他方で問題の発生メカニズムを因果関係ダイヤグラムで表現しその内容を理解します。
そして、因果関係ダイヤグラムから読み取れる問題構造によって決定される課題を実現するために、発見された資源に先人の知恵のエッセンス(知識ベース)を適用することで問題解決を図るとの考えによっています。いわば「考えるTRIZ」を指向するものです。
そのため、「考えるTRIZ」であるI-TRIZ(Ideation TRIZ)では知識ベースは類比思考を行うための拠り所であって、あらゆる資源の変更の仕方が体系づけられたチャックリストとして整理されている(これをオペレータ・システムという)。
したがって、I-TRIZでは技術の進化に伴うチェックリストの更新を検討することはあっても、課題の実現案を考える際に日々公開される最新の技術情報を検索するようなことはしません。
I-TRIZでは、問題解決をシステムの理想性を向上することであると捉えています。
そのため、因果関係ダイヤグラムから読み取れる問題が(1)「有益機能を改良する問題」、(2)「有害機能を排除、軽減、防止する問題」、(3)「一方で有益機能を供給し、他方で有害機能を排除する問題」のいずれであるかを見極めたうえで、それぞれの問題に対応させて体系づけられたオペレータの指示に従ってそれらの解決策を考えるようになっています。
したがって、I-TRIZを使う場合には、網羅的なシステム思考、因果関係による論理的思考、体系づけられたチェックリストによる類比思考(イメージ思考)により、問題解決に至る全工程についてしっかりと考えることができるようになっています。

システムアプローチの4つの観点

システムアプローチは、問題を抱えているシステムを「システムの階層」、「問題」、「時間」、「機能」といった4つの観点で観察することで問題の状況を詳細に把握し、問題を解決するために使用できるモノ、コト(これらを資源という。)を見つけ出すための手法です。
仏教の方では、モノ、コトを見るためには(1)童眼、(2)密眼、(3)漠眼、(4)洞眼、(5)慈眼、(6)自在眼といった六つの眼を使うこととされている。
童眼とは、子供のように見ることで、ああだこうだと余計なことを考えずに無心に見ることを要求します。
童眼は、なぜそうするのかの理屈は置いといて、システムアプローチの「システムの階層」、「問題」、「時間」、「機能」といった4つの観点に沿って、まずシステムをよく観察してみることを薦めていると考えればよいでしょう。
密眼とは、ものごとを細かく子細に点検する眼を持って、よく見ることを要求します。
密眼は、システムアプローチの「システムの階層」という観点で観察することに相当します。「システムの階層」の観点では、問題の対象となるシステムの構成要素(これを下位システムという。)を観察することを求めます。
漠眼とは、漠然と見ることで、ものから離れて全体の姿を把握することを要求します。
漠眼は、密眼と同様、システムアプローチの「システムの階層」という観点で観察することに相当します。具体的には、システムの周りにあるシステムと関連する他のシステムやシステムの環境(これを上位システムという。)を観察することで、システムの存在価値を再認識することを求めます。
洞眼とは、洞察することで、原因と結果を観察することを要求します。
洞眼は、システムアプローチの「問題」という観点で観察することに相当します。具体的には、問題が生じている原因と問題があることによって生じる結果を観察することを求めます。
慈眼とは、慈悲心を持って見ることで、母親が自分の子供を見ることを要求します。そのものと一体になることであって、シネクティクスという創造技法でも推奨していう方法に相当します。
慈眼は、TRIZでいうところの、賢い小人たち(SLP:Smart Little People)だったらどうするだろうかという観点で解決策を検討することに相当します。
システムアプローチでは、六眼の他に、「機能」という観点から、システムの目的とする機能を実現するための入力と、その機能が実現されることによって生じる出力(成果物)を観察することを求めます。また、「時間」という観点から、現在のシステムに至る前の過去のシステムを観察することと、システムの問題を解決した後の未来のシステムを想像することを求めます。なお、システムがプロセスであれば、そのプロセスの前のプロセス(前工程)とそのプロセスの後のプロセス(後工程)を観察することを求めます。
自在眼とは、自分のイメージ記憶が自在にある状態で見ることであって、体験的なイメージ記憶が自動的に発火してひらめきが起きることをいいます。
自在眼は、問題を抱えているシステムについて、システムアプローチの4つの観点で観察することで、問題解決に役立つ資源が網羅的に発見できるため、解決策を考える準備が整うことを示しています。
つまり、自在眼は、システムアプローチを実施することにより、今まで見落とされていた有望な資源が見つかることで、その資源をどのように変更すれば求める解決策が得られるかは自動的に考えつくだろうことを示しています。
つまり、解決策を考えるとは、発見された資源のすべて見渡してその中から有望そうな資源を見つけることと、見つけた資源を変更する具体的な手段を見つけることといえます。
なお、資源を変更する手段は、I-TRIZが備えている知識ベースである豊富なオペレータ(約500種類)を使用した類比思考を行うことで見つけることができます。

好きな仕事でピンチになろう

未だ誰も解いたことのないような技術的問題(技術的な難問)に直面した場合、ほとんどの人は決まった方法論もなしに、考えついた色々な解決策(思いつき)を行き当たりばったり並べ立てます。それは、その人の知識経験に基づいた試行錯誤法とでもいうべきものです。
試行錯誤法とは、こうしたらどうかというアイデアが思いついたらそれを試行し、失敗し、また別のアイデアを試行するといった試行と失敗の繰り返しのたくさん経験した結果、ようやくうまくいきそうなアイデアに辿りつくといった具合です。いつうまくいきそうなアイデアに辿りつくかはわかりません。いつまでたってもよいアイデアに辿りつかないこともあります。
創造技法といえば、ブレーンストーミング、オズボーンのチェックリスト法、シネクティクス、等価変換理論、NM法とTRIZがあげられるでしょう。
技術的な難問を解く場合には、その分野の専門知識を有する人以外は、試行錯誤法の支援ツールであるブレーンストーミングやオズボーンのチェックリスト法を使っても歯が立ちません。
技術的な難問に立ち向かうには、シネクティクス、等価変換理論、NM法やTRIZを使います。これらは、ブレーンストーミングやオズボーンのチェックリスト法とは違い、類比思考を採用しています。
類比思考とは、よくわからない事象を自分がよく知っている事象にたとえて考える方法です。積極的に異分野の知識を使う方法といってもよいでしょう。しかし、技術的な難問に直面したときに、最初から類比思考を採用することはありません。
最初は、自分の知識経験に基づいて、問題の状況の因果関係を辿った論理思考を徹底的に行います。その結果、どうしてもアイデアが浮かばないといった後で、初めて類比思考に取り組みます。
なぜならば、論理思考で解ければその方が速いからです。また、その方が実現可能性が高いアイデアが得られるからです。
これに対して、類比思考を使って浮かんだアイデアは、現実から飛躍した実現可能性が低いものがほとんどです。そのため、具体性も乏しい場合が多いといえます。通常は、そのアイデアを具体化するためのアイデアが別に必要になります。
ではなぜ類比思考を採用するかといえば、他に方法がないからです。
あれこれと自分の知る限りの知識と経験に基づいた論理思考をしてもよいアイデアが浮かばなかったというのであれば、もうそれ以上考えようがない状態にまで追い詰められているわけです。
それでも考えなければならい場合、人間は自動的にイメージ思考をすることになります。これは直観への入口です。因果関係という論理的な言葉の世界から感覚的なイメージの世界へと、思考の場面が切り替わるわけです。脳が過去の記憶の中から問題解決に役立ちそうな似たもののイメージを自動的に探しに行きます。
とことん追い込まれた経験のある方にはわっていただけることでしょう。そのような経験のない方には、そういうものなのだと思っていただくしかありません。
そのような状態で問題解決のヒントが得られることがあるわけですが、これをピンチのときの知恵といいます。
自分の好きなことに夢中になっているときにも、次から次へとイメージがわいてくる経験をしたことがあるでしょう。そのようなときも、どんどん色々なアイデアが浮かんでいたのではないでしょうか。「好きこそものの上手なり」のことわざどおり、夢中の知恵といえるものが出たのです。
以上のように、知恵を出すにはピンチか好きかのいずれかの状態が必要になります。過去の知恵者といわれる人々は、好きな仕事でピンチになっていたわけです。
ここで、アイデアと知恵の違いは何かといえば、アイデアは出すものであって、知恵は出るものということです。知恵が出れば、意図的にアイデアが出せるわけです。
皆さんも好きな仕事でピンチになってみてください。必ずや、問題は解けることでしょう。

因果関係と因果縁報

読書したりセミナーを受講したりして知識を獲得する個人の問題から、いろいろと考えをめぐらして未来を創造するといった企業や社会の問題のように、小さな問題から大きな問題まで。また、ものづくりといった産業上の問題から、マーケティングといったビジネス・経営上の問題、政治・経済といった社会的な問題まで、いろいろな分野に関係する問題があります。
それらすべての問題が1つの法則で成り立っているといったら驚かれるでしょうか。
それは、因果関係の法則または因果の法則といわれるものです。
因果関係とは、2つ以上のものの間に原因と結果の関係があることをいいます(「デジタル大辞泉」、小学館発行)。「因果」とは直接的な(短時間の)原因と結果の関係を表します。これに対して、間接的な(長時間の)縁と報いの関係を「縁報」といいます。つまり、因とは直接的原因のことをいい、縁とは間接的原因ことをいう。問題によっては因果関係だけではなく、縁報関係についても考慮に入れることが必要になります。
「因果縁報」とは仏教用語です。そもそも日本には古くから問題解決学として仏教がありました。ここでいう仏教とは宗教としての意味ではなく、お釈迦様の思考方法に限った意味です。つまり、お釈迦様は人の悩みを救うにはどうしたらよいいか、を考えたといわれています。
人が持つ悩みとは、自分が直面している「問題」が解けないことと考えることができます。なぜうまくいかないかと、その原因を追求して、どうしたらいいかとあれこれ考えた末、その結論を出せないで悩むことになります。
日常的な悩み事から未来を創造する問題まで、すべての問題が「因果縁報」で説明できるとすれば、これを逆手に取ることでそれらの問題解決ができるのではないでしょうか。
「因果縁報」の分析が十分行われた場合には、自然と根本的な問題の所在が明確となるので、後はその根本的な問題に集中した取り組みを開始すればいいでしょう。具体的には、因果関係を図式化したダイヤグラム(以下、因果関係ダイヤグラムという。)を見て、どこをどのようにすれば、他のどこがどのように変化するかを予測しながら解決案を考えます。
さらに、変化後の「因果関係ダイヤグラム」を作成して、次に起こり得る二次的問題を事前に予測し、その二次的問題の防止策も考えます。また、変化後の「因果関係ダイヤグラム」を作成すると、そのシステムの変化後の進化レベル(発展の段階)を確認できますので、その時点での進化の潜在ポテンシャルが読めることになります。そこで、その先の進化レベルを目指すようにすれば、そのシステムをより理想的な状態に近づけることができます。

問題の情報把握(ISQ)の有効性(問題の関連情報など)

問題の情報把握(ISQ)の「(6)問題の関連情報」の項目は、問題を抱えているシステムの技術分野以外の分野の知識を利用することで、資源を変更する具体的な方法を手に入れるための思考プロセスを与えるものです。
つまり、ここにはI-TRIZが先人の知恵を体系的にまとめた知識ベースを効率的に使用できるようにしたオペレータ・システムに通じる思考プロセスが示されています(本格的なアイデア発想は問題の情報把握(ISQ)に続くアイデア生成プロセスで行います)。
問題の情報把握(ISQ)の「(7)解決策の理想的なビジョン」の項目は、TRIZの基本的概念であって、問題解決に当たって心理的惰性を排除して思考領域を有効な範囲に導くためのものです。
問題に取り組む最初の段階で、問題の情報把握(ISQ)の「(9)システムの変化の許容範囲」と「(10)解決策の評価基準」を確認することの意味は大きい。評価基準が明確でない分野は進歩しないといわれるように、評価基準が定まっていないプロジェクトは必ず失敗するというのが私の中の経験則です。
解決策が完成した時点でそのプロジェクトが成功か否かを見極めなりませんが、評価基準が定まっていない場合には、期限が来れば終わりにするといったことになり兼ねません。
その結果は当然、時間を掛けた割に達成感のないものとなります。そして、多くの場合このプロジェクトは失敗と判定されます。
つまり、プロジェクトは何を持って成功とするかの評価基準がないものは失敗します。
反対に、評価基準が明確であれば、成功するまでやるには後どのくらいの時間が必要かも予測できます。
したがって、評価基準をクリアした時点でプロジェクトが終了になり、そのプロジェクトは成功といえます。
問題の情報把握(ISQ)の「(11)会社のビジネス環境」の項目は、プロジェクトを単なる技術問題として取り組むのではなく、会社の利益に貢献できる結果を生み出す業務であることを自覚した上で、やらなくてはならないことを必ず実現するといったやりがいのある仕事に取り組む姿勢を確認するためのものです。
くれぐれも、「やらなくてもよい仕事を一生懸命やる」といった過ちを起こさないようにしたいものです。

問題の情報把握(ISQ)の有効性(資源把握編)

I-TRIZには、発明的問題解決(IPS)、不具合分析(FA)、不具合予測(FP)、戦略的世代進化(DE)、知的財産制御(CIP)のすべてに共通する「アイディエーション・プロセス」という汎用的な問題解決プロセスがあります。
アイディエーション・プロセスの最初には、11項目からなる問題の情報把握(ISQ:Innovation Situation Questionnaire)があります。
問題の情報把握(ISQ)は、問題解決プロセスをサポートするために、自分が抱えている問題の状況についての入手可能な知識を収集し、系統立てるのに役立つ一組の質問からなっています。
問題の情報把握(ISQ)に記載されている質問に答えることは、心理的惰性を低減し、その問題に対する研究者、技術者のビジョンを変更し、価値のある知識を再構成して、次のアイデア生成プロセスへ導くことを助けます。
問題の情報把握(ISQ)の最初の項目は「(1)問題の簡単な説明」です。
「一つの、単純なフレーズで、あなたの問題を記述してください。専門の用語を使用することを避けてください。その代わりに、あなたが中学生と話すのに使用するだろう「日常的な」言語を使用してください。専門用語を使わずに表現すると、状況をより一般化することになり、解決策を探すうえで幅広いアプローチを使えるようになります。」
この「(1)問題の簡単な説明」の質問文に答えることで、当初考えていた問題点とは違ったところに問題の本質があることに気がつき、問題に取り組む最初の段階での過ちを避けることができるのは大きな利点です。
問題の情報把握(ISQ)の項目の「(2)システムの階層に関する情報」、「(3)システムの機能に関する情報」、「(4)システムの問題状況(問題発生メカニズム)に関する情報」、「(5)システムの時間に関する情報」では、問題解決に使用できる資源を探索することになります。
(8)利用可能な資源の項目では、①物質資源、②場の資源、③空間資源、④時間資源、⑤情報資源、⑥機能資源といった観点で資源を漏れなく探索することが要求されます。
これにより、問題を抱えたシステムの中やシステムの周辺にある利用可能な資源が網羅的にリストアップされることで、問題を解くために使用できる要素のすべてが明らかになります。
この資源把握を体系的に行うための手法を、アイディエーション・プロセスでは「システムアプローチ」と呼んでいます。
問題の情報把握(ISQ)では、システムアプローチが自然に行えるように、「(2)システムの階層に関する情報」、「(3)システムの機能に関する情報」、「(4)システムの問題状況(問題発生メカニズム)に関する情報」、「(5)システムの時間に関する情報」、「(8)利用可能な資源」、という項目が盛り込まれています。
その結果、思考領域が一挙に広がり、問題解決に際して何に手を付ければよいかといった全体観が得られ、特定の箇所に偏った取り組みに陥るようなことがなくなります。
「問題解決とは資源を変更することである」ということを知っていれば、どの資源にどのような変更を加えればよいかを考えるだけで、問題が簡単に解けてしまう場合もあります。
そのため、この後のアイデア生成プロセスを経ることなく、問題解決のプロジェクトが終了になることも起きます。それだけ威力のあるのが「資源把握」という概念です。

Sカーブ上の段階ごとの問題点

新技術を開発しても、それを受け入れる市場ができていない場合には、いわゆる「死の谷」に落ち込んでしまい、日の目を見ずに終わることがあります。これを、「クロコダイル・バック現象」といいます。
I-TRIZではSカーブ分析に関する研究成果が豊富であり、「クロコダイル・バック現象」はその一つです。
「クロコダイル・バック現象」はSカーブの幼児期の段階にある事業が遭遇する主要な問題の一つです。
システムの現実の進化のプロセスでは、Sカーブの段階1(幼児期)から段階2(成長期)への移行がスムースに進む例は多くありません。むしろ、様々な試みが失敗に終わった後で、漸くしてから成功にたどり着くことになります。
多くの試みが失敗に終わる理由は、「(1)登場したばかりのシステムはまだ商品として売られ、使われる準備が整っていない。(2)市場に新しいシステムを受け入れる態勢ができていない。」などがあります。
古く、複雑で、生産量が比較的少なく、開発している企業の数が少ないなどで競争も激しくないシステムでは、システムの基本的パラダイムが、可能な改良のアイデアが出尽くしていないうちに、時期尚早に固定化してしまうことがあります。これはSカーブの成長期に起きる現象であり、「時期尚早の老化」と呼んでいます。
「時期尚早の老化」の結果、本来は成長期にあるべきシステムの性能は長期間ほとんど変化していない、どの会社も同じような製品を売っている状況(成熟期に似た状況)に陥っていることがあります。
Sカーブの成熟期では、それまでにシステムに関する標準は確立され、固定化されているため、原理的に高度な発明は行われず、改良といっても仕様の最適化、妥協的な設計、小さな発明が行われるだけです。他方、売り上げは順調に伸びているため、新しいシステムへ移行することなどには思いも寄りません。
その結果、いつも間にか安価な代替システムに市場を奪われてしまうこと(破壊的イノベーションの発生)になります。
いずれのケースも、システムやその周辺に存在する資源を見逃しているか、またはそれらの資源の活用が不十分であることに起因しています。
いずれのケースの問題解決の鍵は資源の有効活用です。となれば、既存の技術の新しい用途を見つけ出す用途開発の手法が使えるはずです。
つまり、システムの資源を有効活用すべく新しい市場を作り出せばよい。そのためには、人の新しい生活習慣や振る舞いを提案する新文化の開発が必要です。
I-TRIZには、新しい市場を作り出すための新文化の開発に有効な方法論として戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)が用意されています。