論理思考とイメージ思考との関係

前回は、「ひらめき」は無意識の脳の機能であるため、意識的に得ることはできないといいました。

しかし、「ひらめき」が起きやすい環境を整えることはできるともいいました。

その方法は、対象となる問題について論理思考で徹底的に考えること。つまり、もうこれ以上考えられることはないと思えるまで考えること。ここまでは、意識してできることです。

この段階まで来ると意識側からの手立てがなくなり、意識の脳はその働きを停止しますが、常にその問題が気になる状態が作り出されます。すると、自動的に無意識の脳が過去のイメージ記憶の中を問題解決に役立つヒントを走査し始めます。

そして、あるとき突然その解決のヒントがひらめくことになります。しかし、いつひらめくはわかりません。何等かの外部刺激が影響しているはずですが、今すぐひらめかそうとしてもひらめくわけではありません。

実は、人間には意識的な論理思考と無意識の脳の働きの他に、意識的に行えるイメージ思考という思考方法があります。

私たちは、日常的に外部から新しい情報を取り入れて、「コトバにつながっているいつでも思い出せるイメージ記憶:◎」を増やすことを行っています。

そうすることによって、自分の持っている膨大な量の「思い出そうとしても思い出せずに忘れているイメージ記憶:☆」を、「コトバにつながっているいつでも思い出せるイメージ記憶:◎」に変換するようにしています。

そして、「イメージに直結したコトバ記憶:〇」を使って、これとつながっている「コトバにつながっているいつでも思い出せるイメージ記憶:◎」を介することによって、目的とする「思い出そうとしても思い出せずに忘れているイメージ記憶:☆」を引き出すようにします。

そのための手段としては、考えている問題に一見関係のないことをイメージしてみることが効果的です。

その場合のアナロジー(類比)は、身の回りのものや趣味に関係するものの他、うそのない自然界の生物や現象に求めるのがいいとされています。それは、それらにまつわるイメージが豊富だからです。

問題解決に役立つのは、「思い出そうとしても思い出せずに忘れているイメージ記憶:☆」です。

創造技法とか発想法といわれるものは、すべてこの「思い出そうとしても思い出せずに忘れているイメージ記憶:☆」をどのようにして思い出させるかという手法であるといってもいいでしょう。

ブレーンストーミング、ゴードン法、シネクティクス、等価変換理論、NM法、TRIZなども同じです。

そのため、意識しているか意識していないかは別にして、これらはすべてイメージを操作するためのアナロジー(類比)を使っています。

ひらめきと論理的思考との関係

研究者、技術者であれば、「アイデアがふと思いつく」といった経験をしたことがあると思います。しかし、なぜ思いついたかは本人にもわからないのではないでしょうか。

ということは、そのアイデアにいたるまでの脳機能が無意識のうちに経過したということです。つまり、脳が自動的に働いたことを意味しています。

この新しいことに気がつく無意識の脳の機能を「ひらめき」といいます。

脳科学者の千葉康則氏は、「自分にわからない自分を無意識といい、自分にわかる自分を意識という。」と表現されています。そして、「本当にわかるとは、言葉ではっきりと表現できること」だといっています。

そうすると、「意識の働きを抑えれば、自然に言葉に結びつかない無意識の脳の機能が働きだす」という性質を利用すれば、「ひらめき」を得るための条件を整えることができそうです。

とはいえ、意識を働かせないために何も考えないのであれば、無意識の脳の機能が特定の問題について働き出すことはありません。

実は「ひらめき」を得るには、その問題についてのあらゆる知識を動員して、意識的にあれこれと熟考する(考える種がなくなるまで考える)といった積極的な行動を起こすことが必要です。そによって、「常にその問題が気になる」状態を作り出すことが重要であるという意味です。

考える種がなくなるまで考えると、その問題を考えていない時に、自動的に無意識の脳機能が働き出して、あるとき突然その解決策がひらめくことになります。この熟考の後のひらめくまでの期間を、創造心理学では「あたため」と呼んでいます。

ところで、「ひらめき」には、自分が抱えている問題の解決に役立つものと、そうでないものとがあります。

「ひらめき」が役立つかどうかを評価するために、また「ひらめき」を問題解決に役立てるためには、そもそもその問題についての深い理解がなければなりません。

つまり、「ひらめき」を有効に利用するためには、前提として問題に関連する知識の情報収集とそれらの情報を使った論理的思考が必要になります。

問題を徹底的に考えたうえで、あたための期間を持つことで「ひらめき」を得ます。そして、この「ひらめき」をさらに論理的思考で具体化していくことで、真に役に立つ解決策が得られることになります。

オペレータを使いこなす極意

技術的問題を解決するために採用されるIPS(Inventive Problem Solving:発明的問題解決)ソフトウェア(ソフトウェアの名称はIWB(Innovation WorkBench®)という。)には組み込まれているオペレータは、技術的なアイデアを発想する際のヒントを提供するものです。

 

1つひとつのオペレータは、過去の発明のパターンを体系的に整理したデータベースの中の特定の知識です。IWBではオペレータの「タイトル」と「解説」と「事例」を知ることができます。IWBではオペレータのタイトルが約500あるといいます。

 

すべてのオペレータに習熟すれば、そのタイトルを聞いただけで適切な発明パターンを活用することができることになるでしょう。それは理想ですが、一般の研究者、技術者にそこまで求めるのは酷です。

 

オペレータはタイトルとその解説を読んだだけでは何のことを言っているのかわかりづらいものもあります。ロシア語を英語に翻訳し、それを日本語に翻訳したわけですから、無理もないかもしれません。

 

そこで、特定のオペレータの意味を理解するのに役立つのが、事例ということになります。オペレータの事例は、過去の特許にかかわる技術やアイディエーション・インターナショナル社が手掛けたコンサルの事例に基づいて作成されています。

 

ただし、IWBに出てくる事例は軍事関係の技術や機械分野、建築土木分野、電気分野、化学分野のものが多いことは否めません。そのため、最新の情報技術分野などについてのものは見当たらないのも事実です。

 

たとえ、自分が関係する技術分野の事例が見つかったとしても、その事例は具体的なものですので、その用途特有の事情がわかっていないと(それについての予備知識がないと)理解できないものもあります。

 

また、機械、建設土木、電気、化学、その他にわけた場合のすべてについて、少なくとも1つの事例があるということでもありません。

 

そのような状態のオペレータを有効活用するにはどうしたら良いでしょうか?

 

実は、オペレータに付随している事例を自分の問題に直接類比させて使おうとすると辛いと思います。

 

これは、TRIZやI-TRIZに限った問題ではありません。一般の知識であっても、自分の知らないものは自分が知っているものになぞらえて理解するしかないのです。

 

初めて電気回路について学んだ時のことを覚えているでしょうか?

 

電気回路を水が流れる水路に見立てて、電圧を水路の落差に、電気抵抗を水路にかかっている水車に、電流を1秒間に水路を流れる水の量に、電池を上流まで水を汲み上げるポンプに、それぞれなぞらえて理解したのではないでしょうか。電気は目に見えませんが、水の流れなら見てわかるからです。

 

つまり、類比思考をする際に使用する他の分野の事例は、自分のよく知っている内容のものでなくては役に立たないということです。日本で生まれた創造理論である「等価変換理論」では、これを熟知系といっています。

 

オペレータの事例を使ってアイデアを発想する場合、そのオペレータを使う人によって知識経験が異なるわけですから、その事例はその人が良く知っているものでなければならないということです。

 

IWBに掲載されている事例がわかり難いということであれば、一つひとつのオペレータについて、あなたはあなたのよく知っている事例を新たに加えていくことが必要になります。

 

これがオペレータを使いこなすための極意です。

問題の種類によって異なるオペレータ・システム

I-TRIZでは、問題の種類に関係なく同じ思考プロセスをたどることで、問題の状況が因果関係のダイヤグラムで表現されるため、課題が明確になりその課題を実現するための方策を考えるためのヒントを入手できます。

研究者、技術者はそのヒントを参考にして思いついたアイデアを記録していくことで、従来の試行錯誤法による場合に比べて短時間で課題を実現するための網羅的な検討が可能となります。

このようなステップ・バイ・ステップによる思考プロセスで円滑なアイデア発想を可能にしているのが、アイディエーション・インターナショナル社が開発した「オペレータ・システム」です。

I-TRIZのオペレータは、I-TRIZのソフトウェアの種類ごとに別個のオペレータが用意されています。

(1)技術的問題を解決するために採用されるIPS(Inventive Problem Solving)ソフトウェア(ソフトウェアの名称はIWB(Innovation WorkBench®)という。)には、IPS専用のオペレータ・システムがあります。

(2)故障・不具合分析と再発防止のために採用されるFA(Failure Analysis)ソフトウェアには、FA専用のオペレータ・システムがあります。

(3)故障・不具合予測と予防対策のために採用されるFP(Failure Prediction)ソフトウェアには、FP専用のオペレータ・システムがあります。

(4)新規事業や新商品の企画のために採用されるDE(Directed Evolution)ソフトウェアには、DE専用のオペレータ・システムがあります。

(5)発明強化、特許回避、発明評価を行うため採用されるCIP(Control of Intellectual Property)ソフトウェアには、CIP専用のオペレータ・システムがあります。

研究・開発部門、生産技術・品質管理部門、企画部門、知的財産部門などは、それぞれ特有の性質を持った問題を抱えているため、その問題の性質に合わせて特別な別個のオペレータとその体系を持ったものになっています。

問題の性質に応じて、それぞれのオペレータ・システムを使い分けることが理想になります。

たとえば、故障・不具合に関する技術的問題の場合であれば、IPS専用のオペレータ・システムを使うのではなく、FAまたはFP専用のオペレータ・システムを使ってその問題のメカニズムを明らかにすることで、故障・不具合に関する問題解決が一層容易になります。

発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)のオペレータ

I-TRIZの基本ソフトであるIWB(Innovation WorkBench)には、異なる技術分野の先人の知恵をデータベース化したIPS(Inventive Problem Solving)用のオペレータ・システムが組み込まれています。
IPS用のオペレータ・システムは、

(1)汎用オペレータ(どのような状況にも適用できる汎用性の高い方法)、
(2)一般オペレータ(機能を改良して、望ましくない作用を排除するための方法)、
(3)専用オペレータ(製品やプロセスの特定の特性を改良するための方法)、
(4)補助オペレータ(主要な方法を更に改善し、実現性の高い物とするための方法)、
(5)進化のパターン/ライン(I–TRIZの進化のラインに基づいて製品やプロセスを改良するための方法)

から構成されています。
ところで、IWBではオペレータを使う前に問題を分析する段階があり、プロブレム・フォーミュレータ(PF:Problem Formulator)を使って、有益機能(望ましい機能)有害機能(望ましくない機能)との因果関係の連鎖で表現した因果関係ダイヤグラムを作成します。
そして、問題を解決する段階では、因果関係ダイヤグラム上に記載されている有益機能または有害機能のうち、問題を発生している原因と思われる特定の機能に着目して、その機能またはその機能に関係している他の機能に何らかの変更を加えることになります(場合によっては、機能は変更せずに、問題のある機能が連鎖しているリンク(因果関係を表す関係線)を排除するアイデアが問題解決に有効なこともあります)。
IWBでは、因果関係ダイヤグラムを作成する問題解決に関連する有益機能または有害機能が記載されているボックス(枠線で囲まれた領域)をクリックすると、問題解決のための指針(課題)が文字で表示されます。
指針をクリックすると、その課題を実現するためのアイデアを考えるためのオペレータ(解決ヒント)が自動的に提示されます。
提示されるオペレータは、選択したボックスの種類によって3種類に分類されます。
(1)有害機能(赤色)のボックスを選択すると「有害機能を排除、軽減、防止する」オペレータが、
(2)有益機能(緑色)のボックスを選択すると「有益機能を改良する」オペレータが、
(3)矛盾(黄色)のボックスを選択すると「矛盾の解決」オペレータを見ることになります。
提示されたオペレータを順に読んでいき、その考え方を問題のシステムに当てはめてみることを繰り返して、ブレーンストーミングによる発散思考を行うことで、たくさんのアイデアを得ることができます。
オペレータはいろいろな技術分野で適用できるように、そのタイトルや解説が抽象的なものになっています。また、補足として具体的な過去の事例の説明がありますが、そこで得られる事例は、ほとんどが自分の問題とは直接関係のない技術分野のものです。
そのため、初めての人はオペレータを使ったブレーンストーミングに戸惑いを感じます。自分の問題を解くのに、わざわざ異なる技術分野の知識を使わなければならないからです。
これを類比思考といいますが、他人が思いつかないようなアイデアを発想するためには必要なテクニックといえます。
そもそも、TRIZを使う理由は、自分の技術分野の特許や論文を調べても問題を解決するアイデアが得られなかったからでしょう。ということは、自分の技術分野以外の知識を使うしかありません。
I-TRIZでは、異なる技術分野の先人の知恵を有効活用できるように、統一されたタイトル(約500)のもとに体系化されたオペレータ・システムを使うことで、手ごわい問題を効率的に解決できるようにしています。
是非、類比思考に挑戦してみてください。類比思考によるアイデア発想のコツは、オペレータの知識を自分の問題に沿って読み替えることです。
以下の例を参考にしてください。
【問題】
建造物の外面に貼り付けられた貼紙は、剥がすのが困難です。何かよい方法はないでしょうか?
【オペレータ】
「事前の逆の作用」のオペレータ
解説:望ましくない作用を実行しなければならない場合や、望ましくない作用を回避できない場合は、逆の作用を事前に実行してみてください。
(読み替え)
建造物の外面に貼紙を貼り付けられるおそれがある場合は、事前に、貼り紙を貼り付けることができないようにするか、すぐに剥がせるようにしておいてください。
【解決策】
貼紙が貼付される可能性のある壁面に、無機または有機ベースのワックスにシリコンとアルコール水溶液を入れたものを塗布します。
壁面の外観は変わりませんが、貼紙は簡単に貼り付けることができません。
貼り付けることができたとしても、貼紙は簡単に剥がすことができます。

二者択一ではなく両方とも

問題解決をする場合に、相反する特性のどちらを選ぶかで迷うことがある。
高品質または低コスト、廉価版または特注品、イニシャルコストまたはライフサイクルコスト、柔らかいまたは硬い、大きいまたは小さい、順応または斬新、など。
TRIZでは、これらの相反する特性の両方とも選択することを目指す。
高品質および低コスト、廉価版および特注品、イニシャルコストおよびライフサイクルコスト、柔らかいおよび硬い、大きいおよび小さい、順応および斬新、といった具合に。
ところで、これらの相反する特性は、たとえば、価値観、グレード、トータルコスト、柔軟性、大きさ、トレンド、といった両社に共通する一つの特性についての対立矛盾(その特性に反対方向の値が求められる状況:たとえば、「グレードは高くて低い」など)とみなすことができれば、どちらも成立させる道が開ける。
両者に共通する一つの特性の対立矛盾の要求(たとえば、「グレードは高い」と「グレードは低い」という相反する要求)が、同じ場所、同じ時間、同じ対象(人)、同じ環境、同じ条件、といったすべてを満足しなければならないものでないことに気づけばよい。
一つの特性についての相反する要求が、異なる場所、異なる時間、異なる対象(人)、異なる環境、異なる条件、のいずれかで得られればよいということであれば、結果として、当初相反する特性と考えていた二つの特性の両方を実現することが可能になる。
要するに、私たちが問題をどう捉えるかが重要であって、問題の多くはその捉え方を変えることで解決できるのである。
その典型例は、問題を解決する最初の段階で考えなければならない「制約条件」であろう。
私たちは一般に、制約条件がない方が自由な発想ができると考え、制約条件があるから問題が解けないと思っている。
実は、制約条件はあった方がよい場合と制約条件がない方がよい場合とがある。
自由に考えなさいといわれたら、360°どの方向へ向かって考えていけばよいか迷うのでないだろうか。
たとえば、新規事業の開発の場合を考えてみよう。3年以内に自社が今まで取り組んだことのない新しい事業を見つけるように命じられたとしよう。会社からは何をやってもよいといわれる。このような場合、あなたならどうするか。
新規事業といってもわが社にとっての新規事業を開発するのであるから、現在の強みであるコア技術やブランドを活かすことのできる領域を模索すべきである、と考えるかもしれない。
これは、すでに自ら制約条件を設けたことになる。
私たちは問題を解決しなければならない場面では、無意識のうちに考えるべき方向や領域に制限を加えることで、考えを進めやすくしているのである。
ただし、その結果、うまい新規事業が見つからなかったとしたらどうするか。
その場合には、当初課した制約条件を見直すことになる。自社の強みにこだわらず、自由な発想を目指す。今度は制約条件を外して考えることになる。
次に、当初の制約条件を取り除くことで新しい問題が生じるならば、当初の問題(この場合は新規事業を開発すること)を解決するよりも、新しい問題に取り組む方がよいかどうかを判断することになろう。
自社の弱みを補う技術を持っている会社があるとしよう。その場合にその会社が欲しがっている、または欲しがるであろう技術を開発することを考えてみたらどうだろう。その際に、自社のコア技術が活かせる道が見つかればなおよい。
二者択一ではなく両方とも実現する。ただし、それは時と場合を考えて使い分けることである。

TOC思考プロセスとアイディエーション・プロセス

人間は常に新しいものを求める本能があります。同時に、自らの痛みを伴う「好ましくないと思える」変化には激しく抵抗する生き物です。

 

この2つの願望は、人間の抱えている本質的な矛盾の一つです。

 

新しい管理手法を導入しようとする場合に、必ず起きる葛藤でもあります。

 

あなたがI-TRIZを社内に導入しようとしているとしましょう。その際、導入予定先の部署の研究者、技術者の抵抗が大きい場合には、失敗する可能性が大きいといえます。

 

そこで、いかにしてそれらの研究者、技術者を納得させるかが問題になります。

 

生産現場の生産効率の向上を実現するための制約条件理論(TOC:Theory of Constraints)では、「変化に対する抵抗する原因」が何かを見定め、抵抗を力ずくで排除することなく、納得して「変化」を現実のものとすることを考えます。

 

TOCによれば、次のように「人間が変化に対して抵抗する6つの段階」があるといいます。

 

    1. 問題そのものに対して同意しない

 

  • 解決の方向性に同意しない

 

 

  • 解決策が問題を解決することに同意しない

 

 

  • 解決策を実行すると新たな問題が発生する

 

 

  • 解決策実行前の障害を克服できない

 

 

  • 未知の問題や障害に対する不安と恐れ

 

 

 

ここで、「(1)問題そのものに対して同意しない」とは、普段の研究開発効率が十分に高いと考えているため、そもそもI-TRIZを導入する必要性を感じていないという意見があがるようなことです。

 

「(2)解決の方向性に同意しない」とは、全員に強制しなくとも、仕事の遅い人たちだけが取り組めばいいという意見があがるようなことです。

 

「(3)解決策が問題を解決することに同意しない」とは、I-TRIZを導入しても研究開発の生産性が著しく向上するようなことは考えられないという意見があがるようなことです。

 

「(4)解決策を実行すると新たな問題が発生する」とは、従来の仕事のやり方を大きく変えることになるのではないかという意見があがるようなことです。

 

「(5)解決策実行前の障害を克服できない」とは、研究開発の成果を形にしようとした場合にいろいろな部門との調整作業が必要になるのではないかという意見があがるようなことです。

 

「(6)未知の問題や障害に対する不安と恐れ」とは、知らない手法が身につくかどうかわからない。従来の方法の方が馴染みがあって安心できるという意見があがるようなことです。

 

TOCは、これらの6つの抵抗の階層を克服してゆくためには、次の状態を順番に作っていけばよいといいます。

(1)問題について合意する
(2)解決の方向に合意する
(3)解決策が問題を解決することに合意する
(4)解決策の実行後に問題が起こらないことに合意する
(5)解決策実行前の障害を克服できることに合意する
(6)解決策の実行に合意する

 

実はこの思考プロセスがI-TRIZの基本的な思考プロセスと同じなのです。

 

I-TRIZの基本的な思考プロセスは、IWB(Innovation WorkBench®)という革新的な問題解決のためのソフトウェアに組み込まれている「アイディエーション・プロセス」というものです。

 

アイディエーション・プロセスは、(1)問題の情報把握、(2)プロブレム・フォーミュレーションとブレーン・ストーミング、(3)方策案のまとめ、(4)結果の評価、(5)実行計画の策定、といった項目からなっています。

 

(1)「問題の情報把握」の前半では、①問題状況を詳細に記録する、②システムアプローチを使って状況を多角的に分析する、ことを行います。つまり、プロジェクトメンバー全員が「問題の現状について合意する」ことに該当します。

 

(2)「問題の情報把握」の後半では、③問題が解決された理想的な状態を想定する、④システムとその環境に関連する資源を明らかにする、⑤システムを変化させるうえでの制約と制限を明らかにする 、⑥問題解決の成否を判定する評価基準を明らかにする、ことを行います。つまり、プロジェクトメンバー全員が「解決の方向に合意する」ことに該当します。

 

(3)「プロブレム・フォーミュレーションとブレーン・ストーミング」では、原因と結果の関係で結ばれた因果関係ダイヤグラムを作成し、問題状況に関する知識を整理します。その結果、問題解決に利用可能な思考上の領域を大きく広げることができ、問題を解決するための複数の指針(課題)が見えてきます。複数の指針の中から、検討する必要があると思うものを選んで、選んだ指針それぞれについて、指針が示唆するオペレータを使ってブレーン・ストーミングでアイデア発想をします。

また、「方策案のまとめ」では、問題の様々な側面にそれぞれ対処する複数のアイデアを組み合わせることによって、状況を大きく改善する方策案としてまとめあげます。つまり、プロジェクトメンバー全員が「解決策が問題を解決することに合意する」ことに該当します。

(4)「結果の評価」の前半では、満足できていない評価項目あるいは制限を、方策案を改善するために解決しなくてはならない新たな(二次的な)問題ととらえて、二次的問題を解決します。つまり、プロジェクトメンバー全員が「解決策の実行後に問題が起こらないことに合意する」ことに該当します。

(5)「結果の評価」の後半では、当初の問題を完全に解決する完璧な方策案でも、実行に移すと予期せぬ不具合がおこることがあります。既存のシステムを改善する新しい方策を導入した際に起こるかもしれない潜在的不具合を事前に予測し、予測した不具合を予防する対策を検討します。つまり、プロジェクトメンバー全員が「解決策実行前の障害を克服できることに合意する」ことに該当します。

(6)「実行計画の策定」では、方策案を実行に移す前に、効果を確認するために必要な調査/研究/実験の計画を立てる必要があります。実験をする場合には、実験の結果が何らかの判断について「はい」を意味するのか、あるいは「いいえ」を意味するのかが明確になるように計画します。また、はい、いいえ、それぞれの答えが出た場合について、次のステップはどうするのかあらかじめ計画しておきます。これで、研究開発のリスク管理は整いました。つまり、つまり、プロジェクトメンバー全員が「解決策の実行に合意する」ことに該当します。

 

TRIZが普及しない理由とその対応策(導入段階編)

日本では15年以上前に、製造業を営む名だたる大企業がこぞってTRIZを採用した歴史がありますが、残念ながら現在一般の技術者には普及していません。
その当初からTRIZを採用した大企業でも、今では一部の技術者が使用しているだけで、全社的な取り組みとして継続しているところは数えるほどしかありません。
最近では、弊社の公開セミナーに参加されるほとんどの方が、TRIZという言葉を知らないといいます。弊社のホームページで初めて知ったとのことです。
名前を知らないモノ、コトは意識に上がらないわけですから、本人にとっては存在しないも同然です。何につけても、知名度の低さは致命傷ということです。
自分が抱えている技術問題が解けないとか、解けたとしても他社に先を越されてしまった経験があるなどで、技術開発の生産性を向上しなければならないという問題意識を持つことになり、ようやくTRIZというキーワードにたどり着いたとします。
そこからが大変です。インターネット上でたどり着いたサイトでTRIZの説明を読んでも、ほとんどのサイトがその手法の解説のみに終始しているため、自分にとっての効用がわかりません。
初めての方が知りたいのは、(1)TRIZが自分の抱えている問題の解決にどのように役立つのか、(2)役立たせるためには自分は何をすればいいのか、(3)手法の習得にどのくらいの時間がかかるのか、といったことです。
そこで、最初に入門レベルのセミナーを受けてみることになるでしょう。
入門レベルとはいえ、一般のセミナーではTRIZ特有の用語が出てくるので、それらの用語の意味を覚えるのがやっとといった具合です。肝心の手法の中身までは理解できないことがあります。
運よく、演習問題に取り組めるセミナーを受講できた場合でも、その問題自体が自分の技術分野とは関係のないものである場合には、興味もわかずうわべだけの取り組みといった感じで終わってしまいます。

セミナー参加者の変化

今回はTRIZと直接関係ない話題です。
弊社では毎月2~3回のペースで、I-TRIZで使うツールを使ってみるという体験セミナーを開催しています。
発明的問題解決(IPS:Inventive Problem Solving)、不具合分析と再発防止(FA:Failure Analysis)、不具合予測と未然防止(FP:Failure Prediction)、知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)の4種類のセミナーを順番に行っています。
体験セミナーの参加者には、最後に簡単なアンケート用紙の質問に答えていただいています。
その回答結果によると、今年の春あたりから体験セミナーの参加者が今までとは違っていることがわかります。
TRIZは初めてという方がほとんどです。TRIZが問題解決の手法の一つだということは知っていても、その中身については全く知らないという方もいます。また、TRIZの解説本や演習用ツールを購入してはいるが、実際に使ったことはないとのことです。
これは、私たちのお客様の層が変わったということです。
つまり、従来の私たちの考えを改めて、お客様に対するサービスの提供の仕方を変えなければならないと思いました。
「矛盾マトリックスと40の発明原理」といる日本で最もよく使われているツールは知っているという方が多かったときとは違うということです。
TRIZ業界も世代交代のようです。これからは、まったくの初心者の方に話をするといった態度でなければいけません。それを肝に銘じます。
体験セミナーの中身はもちろん、その案内の仕方も変えなければならないと思っています。
現在、鋭意検討中です。これからの新しい案内をご期待いただければと思います。

体験セミナーはこちら

ブレーンストーミングで創出したアイデアの整理方法

前回、単なるブレーンストーミングは慎重な日本人の性格に合っていないため、短時間でたくさんのアイデアが出ることはないといいました。
では、単に時間をかければたくさんのアイデアが出るかといえば、そうはいきません。それは考えるための視点が参加者の知識や体験の範囲に限定されるからです。つまり、会社でブレーンストーミングを行うとほとんどが同じ部署の担当者の集まりということになるため、全員が同じような心理的惰性(固定概念)に捉われているからです。
I-TRIZでは問題の本質に関係する複数のオペレータ(アイデア出しのヒント)という視点を採用し、たとえば5分毎に異なるオペレータを参考にして次から次へと異なる視点からのアイデアを出していくことにしています。
前回紹介しました「ブレーンライティング」とI-TRIZのオペレータを併用すれば、1グループ(原則として6人)が30分で約100件のアイデアが出せます。その中身は複数の視点の異なったアイデアが多数揃っていることになります。
そこで、これらのアイデアをどのようにして整理するか。
まず、1枚のアイデアシートには18件アイデアが記載されていますので、各自がアイデアシートから面白い(意外)と思うアイデアを3件選択します。この段階では、実現可能性の良否で選ばないことが大切です。実現可能性は二次的問題として後でじっくりと解決策を考えます。
次に、各自が選択した3件のアイデアについて選択した理由(新たな視点)を全員に発表します。
発表は、従属関係にない2つの視点(目的(要求機能)と手段(構成要素))からなる4象限マップを作成して行います。その際、それぞれの視点には「長い、短い」、「無限、ゼロ」のような両極端の概念を指標として採用します。
4象限マップの指標にしたがって出来上がった領域のどこかに、自分が選択したアイデアをマッピングすればよいかを考えます。また、現行製品やサービスがあれば、この4象限マップにマッピングします。
4象限マップにアイデアをマッピングすることで、参加者の心理的惰性(固定観念)が読み取れます。そこで、4象限マップから読み取れた心理的惰性を打破するようなアイデアを創出するようにします。このときには、アイデアの組み合わせを考えるとよいでしょう。
4象限マップ上でアイデアの整理をする意味は、心理的惰性を見える化し、その心理的惰性を打破するアイデアを創出することにあります。これは、ブレーンストーミングの本来の目的の一つです。