発明原理や人手にこだわらないこと

現在、日本でTRIZといえば、創案者であるアルトシュラーが第一線で研究開発をしていた1985年頃までに完成された古典的TRIZのことをいいます。 古典的TRIZは、技術的矛盾、物理的矛盾、物質-場分析などのそれぞれ別個の問題の定式化(問題を抽象的に表現する)を行うことで、発明原理、分離の原則、発明標準解などの発明の定石パターンを使って、発明的な問題の解決を図ろうとするものです。
古典的TRIZには、この他に工学的な効果集や技術的進化の法則というものもあり、その理論と方法論の体系が膨大なため、使いこなせるようになるのに相当な時間(100時間程度)を必要とするといった欠点がありました。 そのため、イスラエルでは古典的TRIZを簡略化したSITという手法が開発されたり、日本のように技術的矛盾を解決するための発明原理だけを使うことが起きています。
自分は技術開発の問題を解こうとしているのだから、技術的矛盾だけを対象にすればいいので発明原理だけで十分だと思い込んでいる人もいます。 日本では、40個の発明原理では多すぎて面倒だということで、一部では8個、12個といった汎用性の高い発明原理だけで問題解決に取り組もうとしている人もいます。
古典的TRIZの一部分だけを使用するのでは、せっかくのTRIZの威力が発揮されないのは当然です。 発明原理だけを使って良い結果が得られなかったからといって、TRIZは役に立たないと決めつける人がいるのは困った話です。
そもそも、アルトシュラーは1970年代に、発明原理では高度な発明的問題には歯が立たないと判断し、それ以後に分離の原則や発明標準解を開発しているわけで、発明原理だけで色々な問題を片付けようとすること自体に無理があります。 理想性の観点からすれば、以上のような安易な簡略化に陥らず、取り扱いが容易であって、かつTRIZの強力な威力が得られる手法が望まれるわけです。
I-TRIZでは、通常のエンジニアリングプロセスの分析段階で、(1)問題を多観点で観察することで問題解決に使える資源を見出し、(2)問題の状況を因果関係ダイヤグラムに表現さえすれば、ソフトウェアがそのダイヤグラムの論理を読み取って自動的に問題解決のために必要な指針が網羅的に提示します。
提示された指針の中から、自社の内部状況(人、設備、資金、競合関係等)を勘案して、取り組む課題として適当と思われるものを選択すると、ソフトウェアが自動的に選択した指針に最適な解決パターンを提示します。 この解決パターンには、発明原理、分離の原則、発明標準解、革新ガイド、技術進化の法則のすべてが含まれており、それらを問題解決者が意識して使い分けるようなことは必要ありません。
問題解決者は、単に課題実現のために選択したいくつかの解決パターンを、分析段階で見出したいずれかの資源に適用する(組み合わせる)といった操作(思考)をブレーンストーミングの要領で繰り返すだけです。 後は、その操作結果として得られた技術的なアイデアの中から、自社にとって最適なものを選択すればいいのです。
問題解決者にとって、取り扱いが容易であって、かつTRIZの強力な威力が得られる手法がI-TRIZということです。 I-TRIZには使用するエンジニアリングの分野によって、企画部門に最適なDE(戦略的世代進化)、研究開発部門に最適なIPS(発明的問題解決)、生産部門に最適なAFD(先行的不具合対処)、知的財産部門に最適なCIP(知的財産制御)という各ソフトウェアが存在します。
ソフトウェアを使わないでTRIZを使いたいという人がいますが、TRIZを実務に使うのであればソフトウェアが必須であると考えるべきです。 なぜならば、TRIZは先人の知恵を蓄積した知識データベースを持っていることが他の創造技法と一線を画している点であり、その膨大な知識ベースを簡単に使いこなすには人手では無理だからです。

ものづくりからコンセプトづくりへ

ものづくりの主役である製造業、その中でも典型的なのが自動車産業ですが、自動車の電子化が急速に進んでおり、現在では特許出願の半分は電子部品関連であるといいます。 自動車に限らず、かつて機械的に実現されていた機能がソフトウェアで代替され、現在では電子部品が組み込まれた製品の付加価値の90%はソフトウェアに由来するともいわれています。
世の中はいわゆる情報産業の時代にあるということです。 iPod、iPone、iPadのようなものが、なぜ日本で生まれないのかといわれていますが、その最大の原因は、「もの」より「コト」(物語)やコンセプト(全体を貫く基本的な概念、理念)が重要視されるようになった時代にもかかわらず、未だにものづくりに拘っているからではないでしょうか。
確かに、日本製品の品質は世界一かもしれませんが、ほぼ同じ品質のものが韓国や台湾で安く作られて、特にコンピュータでは、製造ノウハウは新興国にほぼ完全に移転されており、日本が製造する意味がないように思われます。 そして、コンピュータと密接な関係にある情報産業では、必要な部品は陳腐化して世界中から調達できる一方、それを使って行うサービスには不確実性が大きいので、独創的なアイデアや美しいデザインなどの無形資産は簡単に手に入らないという状況があります。
情報産業の世界では、物的資本より人的資本の問題が重要であるということです。 ものづくり技術(製品)に大事なのは品質や信頼性ですが、情報産業の製品に大事なのはコンセプトです。美しいデザインとコンセプトの統一性こそが重要であり、これはものづくり技術と違って分割することができません。
日本の中で完成させなければなりません。 ところが、科学の理論が科学者の直観から生まれるように、イノベーションを生むのは技術者の才能によるため、イノベーションを起こす具体的な方法論はないといえます。
スティーブ・ジョブスが、アップルの企業理念は「本当にいけてる製品をつくることだ」といったように、「楽しく面白い仕事をする」というモチベーションこそがイノベーションを起こすエネルギーです。 また、イノベーションを広めていくためには、そうすることが必然だと思える魅力的な物語が必要だということです。
スティーブ・ジョブスがiPadのプレゼンテーションをしたときに、彼はソファに座っていました。 彼は、従来のコンピュータは机に前のめりに座って仕事をするために使用するものだったが、これからはリビングでソファに身を横たえてくつろぐときに使うものだ、という物語を伝えたかったのでしょう。
新製品を開発して世の中に普及させようとするイノベーションは、ある意味賭けであり、不確実性が大きいものです。そのため、多くの日本企業が組織によるコンセンサスでその是非を決める方法では、リスクを避けて無難な製品しか生まれないことになります。
イノベーションを起こすには、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブス、孫正義のような確固たる理念を持った強いリーダーシップを発揮できる人が必要であるということではないでしょうか。そして、その理念に共感して「楽しく面白い仕事をする」ことに生き甲斐を感じる技術者がいることが必要でしょう。

直観と問題意識

知識が豊富な学者タイプの方が中々発明をしないといわれます。 それは、知識をコトバとしてのみ扱っており、それに関連したイメージを積極的に利用することをしていないからです。 イメージ記憶の中にある豊富な真実のデータを直観によって見ることでアイデアが生まれるわけですが、学者タイプの方はそれが嫌いなようです。
直観は科学的でないというのがその根拠のようです。 山勘では困りますが、研究上のデータに基づく直観は科学的でないはずがありません。 研究を進める上で予測が大事といわれますが、この予測は研究者自身が自分で経験した観測事実から得られたもののはずです。 データにはコトバだけでなく、イメージがつきものです。
実体験から得られるイメージには嘘はありません。 実体験から得られたデータに基づく直観こそ、もっとも科学的な予測技術であるといえるはずです。 直観が得られるか否かは、そのテーマに対する問題意識の高さに左右されます。 高い問題意識が持てるかどうかは
(1)そのテーマが「好き」かどうか、
(2)「ピンチ」な状態にあるかどうか、
によって決まります。
「好き」ならば強烈な問題意識を持つことができるので、困難にぶつかっても考えることをやめません。その結果、考えるタネがなくなるまで考えることができます。そのような状態では、ほっといても「いのち」が自動的に(直観の)知恵を出します。
また、お金がない、時間がないといった「ピンチ」の状態ということになれば、何とかしようと考えます。考えるタネがなくなるまで考えざるを得ません。この場合は、「いのち」に働く刺激が生きていく上で好ましくない状態になるため、「いのち」は自動的に(直観の)知恵を出します。
アイデアが出ないときに、先輩や専門家に相談して、彼らの知恵を借りようとする人がいますが、これは上手いかない場合が多いといえます。 それは、相談する人の潜在意識的な「好き嫌い」があるため、たとえ他人が親身になって助言してくれたところで、そのことが相談する人の「好き」に合うかどうかわからないからです。
偶然、その助言が相談する人の「好き」に合致すれば本人が採用することになりますが、「好き」に合致しなければその助言を聞き捨てにするか、場合によっては悪意に解釈することになりかねません。 直観を得たいのであれば、他人に頼ることなく、自分自身が「好き」なテーマを選び、締め切り日を決めて成果を評価する習慣を持つことで「ピンチ」感を持った研究開発を心掛けるべきでしょう。

最後はコミュニケーション

マーケティングの教科書には、市場調査、市場戦略、コンセプト構築、実行計画の作り方が説明されています。技術開発の教科書には、技術調査、技術戦略、アイデア発想、設計の仕方が説明されています。
マーケティングや技術開発の教科書を学ぶことで、何とか新しいコンセプトやアイデアを考えて第三者に提案できる段階のものを完成することができます。 ドラッカーやコトラーの各種マーケティング手法はもちろんのこと、市場のトレンドを把握するための市場調査、たくさんの顧客の要望や意見から多くの顧客が望んでいる製品やサービスのニーズを把握するためのデータマイニングやテキストマイニング、などを駆使すれば新しいコンセプトが完成するでしょう。
顧客の声から製品やサービスの仕様を決定するためのQFD(品質機能展開)、顧客が望む製品やサービスの機能を再構造化して創造的な構成案を考えるVE(価値工学)、革新的な問題を解決するためのTRIZ(発明的問題解決理論)、出荷後の市場品質の向上を図るために生産技術や製品技術の開発や設計といった技術そのものの品質を管理するためのタグチメソッド(品質工学)、などを駆使すれば製品やサービスの新しいアイデアが完成するでしょう。
しかし、どんなにすばらしいアイデアやコンセプトが生まれても、それらが実現されなければイノベーションは起きません。 アイデアやコンセプトが魅力的であればあるほど、実現するまでの壁が高くて大きいものとなります。この壁を越えなければそれらから生まれる製品やサービスが世の中に出ることもありません。
企画部門で開発したコンセプトであれば、企画責任者が納得し、技術開発部門の協力が得られなければ実現できません。技術開発部門で考えたアイデアであれば、技術開発責任者が納得しなければ実現できません。
企画責任者、技術開発責任者が納得したとしても、経営責任者が納得しなければ実現できません。 これらの社内の壁を通過したとしても、別途市場の壁を通過しなければなりません。顧客はもちろん、流通・販売に関わる人々をも納得させなければなりません。
残念ながら、社内の壁や市場の壁を破るための具体的な手法は、マーケティングや技術開発の教科書はもちろん、MBA(経営学修士)やMOT(技術経営)の教科書にも記載されていません。 そもそも、イノベーションを起こすための手法であるTRIZが普及していない理由も、最後は意思決定者である企画責任者、技術開発責任者、経営責任者を説得することができていない点(社内の壁)にあるのではないかと思います。
企画担当者、技術開発担当者がいくらTRIZが有効だと思っても、彼らが個人的に使うことがあっても、企画責任者、技術開発責任者、経営責任者を説得できなければ、事業部全体または企業全体で採用されることはありません。 TRIZを研究する大学や大学院はあっても、企業で採用されないものを大学生に教える大学はありません。
イノベーションを起こすことはもちろん、イノベーションを起こすための手法であるTRIZを普及させるためには、社内関係者、流通関係者、顧客といったすべての人の心をつかみ、納得させることが必要になるというわけです。
アイディエーション・ジャパン株式会社では、古典的TRIZではなく、米国のアイディエーション・インターナショナル社が古典的TRIZを進化拡張させたI-TRIZを活用することで、イノベーションに関わるすべての人の心をつかみ、納得させることのできるアイデア(コミュニケーションのアイデア)を提供したいと考えています。

目指すべきイノベーションとは

シュンペータによって「経済活動の中で生産手段や資源やそして労働力などを今までとは異なる仕方で『新結合』すること」と定義された「イノベーション」は、日本では一般には「技術革新」のことと捉えられている感があります。
しかしながら、今では、技術の発明に限らず、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす変革と捉えることがよいでしょう。 マーケティングの分野では「イノベーション」を、過去のものから連続した直線的に進行する「漸進的イノベーション」と、過去のものから不連続的に進行する「急進的イノベーション」の2つに分けることで、より実践的な概念として扱われています。
一般には、「急進的イノベーション」の方が「漸進的イノベーション」より大きな社会的な変化をもたらすということから、企業としてはいかにして「急進的イノベーション」を起こすかという意見が多いようですが、私はこの意見に疑問を感じています。
「急進的イノベーション」から生まれた新製品・サービスは、その新製品・サービスの方が既存製品・サービスよりも低価格であったり、性能が格段によくなったりすることで、一気に顧客を引きつける力があります。
そのため、既存製品・サービスは競争力を急激になくしてしまうことになります。 「漸進的イノベーション」から生まれた新製品・サービスは、その市場の一部にしか関連しないと考えられるため、既存製品・サービスもそれなりの競争力を持ち続けることになります。
つまり、「イノベーション」が企業に与える影響は、その企業が既存製品・サービスを持っているか否かで異なるということです。 したがって、企業が「イノベーション」を目指す場合には、その企業の組織や市場における製品・サービスの状況と採用しているビジネスモデルによって「急進的イノベーション」と「漸進的イノベーション」のいずれを選択すべきかを考えなければならないということです。
「急進的イノベーション」の方が大きな社会的な変化を起こすことになるわけですが、一方で、その変化を起こすために新たな資源(人、物、金、情報等)が必要になるということも考えられます。 そのため、その変化を起こすために企業内の組織や環境を変化させることも必要になると思われます。
「急進的イノベーション」を起こすために、企業内の組織や環境を大きく変化させることには抵抗があるでしょう。 「漸進的イノベーション」は企業の既存能力を基に積み上げていくことで競争力を高めることができますが、「急進的イノベーション」の場合には企業の既存能力で対応することが難しいことから、かえって競争力を低めることにもなりかねないということです。
「急進的イノベーション」の方が「漸進的イノベーション」より大きな社会的な変化をもたらすということから、すべての企業が「急進的イノベーション」を目指べきであるというような、単純な結論にはならないことは確かなようです。

十如是とシステム・アプローチ

発明技法であるNM法を創案された中山正和氏は、「法華経」が創造性開発のテキストであるといわれました。 「法華経」には、物事について「相、性、体、力、作」の5つで今どうなっているかを分析するための尺度と、その現在の状況が過去や未来にどのようにつながっているかを「因、縁、果、報」の4つで考えることが示されています。
ここで、「相」は外面的な特徴、「性」は内面的な性質、「体」は実体、「力」は能力(エネルギー)、「作」は現実の作用、「因」は物事の原因、「縁」は現象の間接的原因、「果」は結果として現れること、「報」は因果関係が未来に与える影響のこととされています。
このような観点によって過去、現在、未来のあり方をすべてまとめて観察するのが「本末究竟等」(相から報に至るまでの事柄が究極的に無差別平等であること)を含めた「十如是」であって、存在の真実のあり方を知る手段を教えてくれています。
一方、古典的TRIZでは、対象とするシステムと、そのシステムの構成要素である下位システム、およびシステムに関連する上位システムを観察し、システム、下位システム、および上位システムそれぞれの過去ならびに予想される未来を観察します。
「上位システム-システム-下位システム」と「過去-現在-未来」の観点を組み合わせた9つの観点で物事を捉えようとした思考法が「マルチスクリーン」というものです。 I-TRIZでは、「マルチスクリーン」よりも多くの観点でシステムを観察する「システム・アプローチ」という手法を採用しています。
「システム・アプローチ」では、「上位システム-システム-下位システム」と「過去-現在-未来」の他に、問題の原因、問題の結果として生じる不都合、および、これらに関連するシステムの機能に着目する「原因-問題-結果」という観点と、システムに対する様々なインプット(入力)、システムからのアウトプット(出力)、およびそれらの問題と関連するシステムの機能に着目する「入力-機能-出力」という観点を使用します。
「原因-問題-結果」はシステムの因果関係を観察することですが、「十如是」によれば、因果関係に直接的な関係の「因果」と間接的な関係「縁報」とがあることを教えてくれています。 「システム・アプローチ」では、システムのプロセスの前の時間とプロセスの後の時間を観察する段階が設けられていますが、これは因果関係のうちの直接的な関係のことです。
原子エネルギーの力を使って電力を得る際の利害得失を考えることは直接的な関係を考えることであって、その結果、地球の未来にどのようなことが起きるかを考えることが、間接的な関係を観察することに当たるでしょう。その両方を考えることが必要なわけです。
「入力-機能-出力」では、システムが必要とされている機能を実現するためにどんな入力が必要で、システムが機能した結果としてどのような出力が生まれるかを考えることになります。 出力は本来そのシステムが機能することによって得られるものであって、そのシステムを使用する目的に関係するといえます。入力はそのシステムを機能させるために必要な手段と考えることができます。
したがって、「入力-機能-出力」は人間の価値観に関係する目的手段関係を表しているともいえます。 「システム・アプローチ」によって、システムが今どうなっているかを知り、システムの現在の状況が過去や未来にどのようにつながっているかを知ることができます。また、システムの機能を中心とした因果関係、目的手段関係を明らかにすることで、システムの意味とそのあるべき姿を明確にすることができます。
これによって、システムが抱える問題を解決するための方向性が明らかになります。

TRIZと類比思考

その昔、創造性開発を専門としている先生から「TRIZのどこが創造的なのか?」という疑問が投げかけられたことがあります。 沢山の種類の問題解決手法からなる古典的TRIZを行うためのアルゴリズム(手順書)をARIZといいます。 TRIZの創案者であるアルトシュラーが関わった最後のARIZは、ARIZ-85Cというもので、以下のような手順に従って問題解決を考えていきます。
1.最小問題を定義する
2.対立の対を定義する
3.技術的矛盾を表現する
4.2つの技術的矛盾から一方の対立図を選択する
5.対立を強める
6.特定の最小問題モデルを定式化する
7.最小問題モデルの解決に標準解法システムを使えないか考える
8.作用領域を決定する
9.作用時間を決定する
10.想定されるシステム環境およびシステム全体とともに問題のプロダクトとツールに物質・場パラメータ資源を見つけ出す
11.空間、時間、物質、場の資源リストを作成する
12.究極解1を定式化する
13.究極解1の定式に必要条件を追加して強化する
14.物理的矛盾をマクロレベルで定式化する
15.物理的矛盾をミクロレベルで定式化する
16.究極解2を定式化する
17.究極解2として定式化された問題を標準解法システムにより解決できないか考える
18.いくつかの有効な解決策を得る
以上のとおり、古典的TRIZのアルゴリズムでは、最小問題、対立の対、技術的矛盾、物理的矛盾などを定義または定式化する段階や、資源リストを作成するような問題の分析、定義に関する作業がほとんどを占めており、その中身は論理的な思考が中心になります。
一方で、標準解法システムによって解決策を出す段階になると、定式化された一般的な(抽象的な)問題に対する一般的な解をヒントにして、具体的なアイデアを出すことになります。 しかしながら、抱えている具体的な問題と直接的な関係のない一般的な解を与えられたとしても、そこから具体的な問題を解決するための具体的なアイデを出すことは容易なことではありません(論理思考だけでは無理)。
そこでは、問題解決者の知識や経験によって、一般的な解を実現している具体例を自分の記憶から引き出して、その具体例で行われているメカニズムを使って抱えている具体的な問題が解けないかと考える必要があります。 知らないことを理解するには、自分が知っていることになぞらえて考える以外に方法はありません。
問題解決の場合も例外ではありません。 このような思考方法を類比思考といいます。TRIZも他の創造技法と同じく、アイデアを出す段階ではこの類比思考に頼ることになります。 たとえば、シネクティックス、等価変換理論、NM法といった技術的問題を創造的に解決するための技法は、いずれも類比思考を円滑に行うための方法論であるといえます。
論理思考によってどんなに問題を精緻に分析したとしても、解決策を考え出す段階では他のものになぞらえて考えるイメージ思考(想像思考)が必要になります。 この点は、TRIZも他の創造技法と何ら変わりません。 TRIZを使った問題解決を行う際には、創造性が必要になるわけです。裏を返せば、TRIZを使った問題解決の訓練を繰り返すことで、創造性が高まるということになります。

持続的イノベーションから破壊的イノベーションへ

イノベーションの語源は、1911年に、オーストリア出身の経済学者シュンペーターによって、著書『経済発展の理論』において初めて、物事の「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」を創造する行為のことであると定義されました。
新しい技術の発明だけではなく、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革である、ということです(「ウィキペディア」より)。
自動車やエレクトロニクスの産業分野に代表されるように、1980年代の日本の高度成長期は、欧米の新材料/新要素や新製品によるイノベーションに対し、すぐにキャッチアップして新製法によるイノベーションで競争力を獲得してきた、といえます。
ウォークマンのように日本オリジナルの製品モデルもありますが、欧米で創造された商品モデルに新製法によるノベーションで価値を生み出そうとしたケースが圧倒的に多いのが現状ではないでしょうか。 高度成長期の日本企業の生産現場では、大量生産による生産性向上を図るため、小集団活動、改善活動などで、製品の性能を上げたり、生産性を挙げたり、信頼性を上げたりしてきたといえます。
しかしながら、近年では市場環境の変化から、生産現場では少量多品種に対応する必要性が生じてきました。 そのため、顧客の声(VOC)を聞くことが重要であるとの観点から、別の意味で製品改良を繰り返すことが望まれています。
その結果、いつしか製品の性能のほうが顧客の望む性能レベルを超えてしまい、高コスト・高価格・過剰スペックの製品が出来上がってしまう、といった結果を招くことになります。 このように、顧客の要望を忠実に拝聴した結果であるのに、顧客の要望をオーバーしてしまうという逆説的な事態を、クリステンセンは過剰解決と呼びました。見方を変えれば過剰品質ということといえます。
クリステンセンは、このように、消費者や顧客が望む性能進化のスピードよりも技術進化のスピードが常に上回ると考えられています。このような既存の価値観の元での直線的な改良によるイノベーションを「持続的イノベーション」と呼びました。 このような「持続的イノベーション」は、先例があるものの改良行為で足りるものであって、古典的TRIZの得意とする範疇であるといえます。
クリステンセンは、「持続的イノベーション」の対極的な概念を「破壊的イノベーション」と呼びました。 「破壊的イノベーション」には、既存市場において大きなシェアを持ちながらもオーバーシューティングに陥った優良企業の高価格・複雑な製品に対し、より低価格や簡便性を実現する“破壊的技術”によって、これまで空白になりつつあったローエンド市場に参入する「ローエンド型破壊的イノベーション」と、新たな破壊的技術を用いた製品を、既存市場の一部としてのローエンド市場ではなく、新しい価値軸に基づいた、これまでと異なる新規市場に参入する「新市場型破壊的イノベーション」があるといいます。
クリステンセンは、「新市場型破壊的イノベーション」を「無消費」すなわち消費のなかった状況に対抗するイノベーションであるとしています。たとえば、ソニーのトランジスタラジオやウォークマンは、小型化という技術的イノベーションを新しい価値の軸で市場投入したことにより新しい市場を創造しました。
既存市場でハイエンド市場へ向けて「持続的イノベーション」を繰り返していくイノベーションが、破壊的技術によって「ローエンド型破壊」や「新市場型破壊」をもたらす破壊的イノベーションに駆逐されてしまう現象を「イノベーションのジレンマ」といいました。 「破壊的イノベーション」のうちの新しい価値軸に基づいた「新市場型破壊的イノベーション」は、残念ながら古典的TRIZの範囲を越える概念であるといえます。
非直線的な変化による「新市場型破壊的イノベーション」は、不連続な進化の法則を何百もの進化のパターン/ラインによって体系的に整理した知識ベースを活用することによって初めて、意図的に創造することが可能になるものです。
古典的TRIZを先進的な改良を加えたI-TRIZには、戦略的世代進化(DE:Directed Evolution)と知的財産制御(CIP:Control of Intellectual Property)といった、体系的に整理された進化のパターン/ラインの知識ベースを活用した「未来制御」を可能とする手法が整備されています。I-TRIZは、これらの手法を使うことで「新市場型破壊的イノベーション」を可能にします。

抽象的なヒントだけでは発明的問題には歯が立たない

抽象的なヒントとは、従来の創造技法でいえば「オズボーンのチェックリスト」のようなものをいいます。
「オズボーンのチェックリスト」では、アイデアを出すための切り口として、
(1)他に使い道はないか(転用)
(2)他からアイデアが借りられないか(応用)
(3)変えてみたらどうか(変更)
(4)大きくしてみたらどうか(拡大)
(5)小さくしてみたらどうか(縮小)
(6)他のものでは代用できないか(代用)
(7)入れ替えてみたらどうか(置換)
(8)逆にしてみたらどうか(逆転)
(9)組み合わせてみたらどうか(結合)
という9つの視点で考えることを推奨したものです。
オズボーンは広告代理店の業界の人であって、新しい広告のアイデアを出すためにこれらのチェックリストが有効であったということです。
しかし、発明のような、従来にない技術的問題の解決策を考える場合のように、実現可能性のある具体的な技術的手段を考え出すには、これでは力不足といえます。 「(3)変えてみたらどうか」といいますが、問題解決のためには何かを変更することが必要なのはわかりきっています。
これだけでは、どのように変更すればいいのかわかりません。 「(4)大きくしてみたらどうか、(5)小さくしてみたらどうか(7)入れ替えてみたらどうか、(8)逆にしてみたらどうか」は、変更の仕方を教えていますが、一般の技術者であれば設計変更の手段として普通に行っていることです。
したがって、これらのヒントからは、画期的な発明は生まれにくいといえます。 「(1)他に使い道はないか、(2)他からアイデアが借りられないか、(6)他のものでは代用できないか」は、発明の常道と示しているものといえます。
自分の技術分野とは異なる技術分野の知識を活用して問題解決を図ることは、自分の技術分野の専門家にとっては意外な解決策(新しい発明)が生まれる可能性が高いといえます。 しかし、これだけでは、どのような技術分野のどのような知識を活用すればいいのかがわかりません。
「(9)組み合わせてみたらどうか」というヒントは、他の8つのヒントによって考えついたアイデアを組み合わせることで、よりレベルの高い発明を完成しようとする場合に必要になります。
しかし、「創造とは既存のものの新しい組み合わせである」という言葉もあるように、具体的な組み合わせ方を提示しない限り、発明を生み出すためのヒントとしては常識的なものといえます。 以上のように、「オズボーンのチェックリスト」それ自体では、通常の思考では対応しにくい発明的問題を解決するヒントとしては有効なものとはいえません。
これに対して、I-TRIZでは発明的問題を解決するために、以下のようなシステマティックで強力な方法論を採用しています。 問題を解決するアイデアとは、「何をする(目的機能)ために、何をどうする(手段機能)」のかを表したものです。
I-TRIZでは、「何をするために」を明らかにするためと解決の方向性を探るために、問題を多観点(システムの階層(空間)、システムの変化(時間)、システムの機能(入力、出力)、システムの因果(原因、結果))で分析する「システム・アプローチ」を採用しています。 I-TRIZでは、「何をどうする」の「何を」を明らかにするために、問題解決に使える対象を洗いざらい見つけ出すために「資源把握」をします。
ここで、対象のことを「資源」といい、システムとその周辺に存在する物質資源、場(エネルギーや力)の資源、空間資源、時間資源、情報資源、機能資源を探し出すことになります。
これらの「資源」は「システム・アプローチ」を実行することで明らかになります。 I-TRIZでは、「何をどうする」の「どうする」を考え出すために、あらゆる技術分野に共通する技術的手段の本質概念を整理した約440種類の「オペレータ(指針)」を使用します。ただし、本質概念だけでは抽象的なので、「オペレータ」にはその具体例を示す事例(イラスト)が少なくとも1件付加されています。
以上のとおり、I-TRIZは「何をする(目的機能)ために、何をどうする(手段機能)」といったアイデアを完成するための具体的な手法として、「システム・アプローチ」、「資源把握」、「オペレータ・システム」を提供しています。 さらに、I-TRIZでは、アイデアを完成する思考プロセスと完成したアイデアを因果関係ダイヤグラムとして表現する「プロブレム・フォーミュレータ」も提供しています。
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TRIZの部分的使用の問題

依然に、TRIZの部分的使用について説明することを予告しながら未だ実行されていませんでしたので、今回はその説明をします。 実は、現在「TRIZ」という名称で表されているものは、当初アルトシュラーは「発明テクニック」といっていました。
そして、その後、「発明テクニック」は「発明的問題解決のためのアルゴリズム(ARIZ)」という名前に変わりました。 「TRIZ」という名称は、1970年代にアルトシュラーの書簡の中で初めて使われ、1980年代中頃に米国やその他の西側諸国に紹介する際に正式に「TRIZ」という名称を採用することにしたといわれています。
したがって、アルトシュラー自身が第一線で研究していた時期の古典的TRIZの正体といえば、「ARIZ」であるということになります。 アルトシュラー自身が手がけた最後のARIZは「ARIZ-85C」ということですが、その内容は膨大なものです。
ARIZ-85Cでは、最初に、最小問題を技術的矛盾の形で定義し、矛盾図式モデルに表した後、標準解を適用して問題を解決します。 標準解で問題が解決した場合には、解決策の質を確認するために、 新たな物質や場を導入しないで済ませることができないか? 物理的矛盾が解消されているか? 制御しやすい要素が少なくとも1つ含まれているか? 既存の特許資料と比較して新規性があるか? 解決策を実施する際に付随的問題を生じないか? といった点について考慮します。
その上で、 解決策によってシステムが改良されることで、その上位システムをどのように変化させるべきか? 改良されたシステムまたは上位システムが新しい用途で使用できないか? 解決策の原理を一般化して他の問題解決に適用できないか? といった「解決策の活用」について検討します。
他方、標準解を適用しても問題が解決しない場合には、資源の棚卸しを行い、究極の理想的な結果を定義し、究極の理想的な結果を得るための物理的矛盾を定義し、標準解を適用して問題を解決します。
さらに、必要に応じて、対象としているシステムとその外部環境に含まれる物質資源と場の資源を明らかにし、上位システム・システム・下位システムそれぞれの変化を捉えるためにマルチスクリーン・シンキングを活用します。
もし、この段階でも問題が解決しない場合には、賢い小人達のモデルを使って問題に含まれる矛盾の構造を表現し、賢い小人達の行動によって矛盾を解消するための変化を考えて、その変化を現実の問題状況に置き換えることで問題の解決を考えます。
また、必要に応じて、 究極の理想的な結果から一歩退いた形の解決策が得られないか? 物質資源や派生資源を組み合わせることで問題が解決できないか? 場を導入することで問題が解決できないか? を考えます。
それでも問題が解決できない場合には、標準解、物理的矛盾解決法(分離の原則)、物理的効果集を適用することを考えます。 問題の解決策が得られたら、解決策の内容を物理レベルから工学レベル(実行可能レベル)へと具体化させますが、もし、依然として問題が解決していないのであれば、問題を見直して、複数の問題の組み合わせである場合には、個々の問題を解決します。
また、必要に応じて別の技術的矛盾を選択する、最小問題を定義し直すといったことも考えます。 以上のように、ARIZは、標準的(一般的)な問題は標準解を適用することで解決を図り、それ以外の発明的(革新的)問題は、標準解の他に、物理的矛盾、物質-場分析(資源の棚遅し)、マルチスクリーン・シンキング、究極の理想的な結果、賢い小人モデル、物理的矛盾解決法、物理的効果集を使うという仕組みになっています。
しかしながら、日本では一般に、TRIZの紹介として技術的矛盾を定義する標準的な問題を対象とした手法のみが紹介されています。しかも、ARIZ-85Cでは技術的矛盾を解消するために標準解を使うことになっていますが、日本で紹介されている手法は標準解の代わりに発明原理を適用するようになっています。
というのも、技術的矛盾を解消するために、矛盾マトリックスを使って適切な発明原理を選択させるといった手法が一般受けする、というのがその理由のようです。 残念ながら、以上のような事情で、日本ではTRIZの本当の威力(魅力)が一般に伝わっていないというのが私の認識です。
TRIZの本当の威力を体験したいのであれば、古典的TRIZをエンジニアリング・プロセスに沿って再構成した「I-TRIZ」を使用することをおすすめします。