TRIZの習得の仕方

TRIZは知識ではなくスキルである。それは、訓練によって得られる特殊な技能であって、スポーツのように体で覚えるものである。 TRIZは、実施者により、同じ結果を保証するものではない。
同じ状況からスタートしてTRIZの同じ手法(たとえば、古典的TRIZの技術的矛盾と発明原理)を用いても、人により異なった結果に到達する。 TRIZの適用に当たっては、学校で習った各教科の知識と違って、正解がないということである。
学校教育においては、正解を導くことができるようになれば、その方法は習得できたことになるが、正解のないTRIZの適用においては、この判定基準を採用できない。 したがって、特に高い知識を有する方々からすれば、TRIZを使用する際に、大きな不安を引き起こすことであろう。
そのため、TRIZを導入するかどうか大いに迷うことになる。 TRIZの習得に関していえば、どこまで到達すれば習得できたことになるかといった地点は存在しないということである。 TRIZの習得については、「できる」と「できない」のいずれかの状態が存在するのではなく、「よりうまく使える」か「より下手か」という連続的な状態が存在するのみである。
野球やバスケットボールで、「できる」、「できない」という議論が意味を持たず、「だんだんうまくなる」とか「AさんよりBさんの方がうまい」という言い方しか存在しないのと同様である。 国際TRIZ協会の認定制度の5レベル(最高レベル)を持っているTRIZマスターは別格として、私たちはTRIZをうまく活用できることを目指すことになろう。
具体的な目標としては、必要に応じて指導者の援助を受けながら、とにかくTRIZが適用できるといった初心者の状態から、他のメンバーを指導しながらTRIZを使ってプロジェクトをリードできる上級者の状態を目指すことになろう。
なお、TRIZの適用に当たって正解がないということは、唯一の正しいTRIZは存在しないということである。実施者の知識、経験によって自分にあったTRIZ(たとえば、I-TRIZ)を探すことになろう。

アイディエーション・ブレーンストーミング

1950年代にアレックス・オズボーンによって発表されたブレーンストーミングは次のルールに従って行われます。
(1)アイデアに対する否定的な判断は保留し後回しにする(批判厳禁)
(2)非凡なアイデアまたは無謀なアイデアも大いに述べる(荒唐無稽)
(3)他人のアイデアに便乗してよい(便乗歓迎)
(4)アイデアが多いほどよい(質より量)
これらの規則はブレーンストーミングに参加しているすべての人、および、出されたすべてのアイデアが等しい価値を持っているという考え方に基づくものです。 しかしながら、オズボーンのブレーンストーミングでは、ブレーンストーミングで得られるアイデアの数は多くないし、ほとんどがいわゆる単なるアイデアといった実施可能性が低いものばかりで、期待するほどの効果が得られないとの批判があります。
ブレーンストーミングの参加者は始めの10~20分程度は、楽しみながら、活発にアイデアを出しますが、それ以降の時間は参加者からアイデアを「搾り出す」ようになるので、参加者はストレスを感じます。アイデアが出なくなると、その後退屈になり会議が低調になります。
I-TRIZでは、従来のブレーンストーミングに代わって、アイディエーションが考え出したブレーンストーミング(以下、アイディエーション・ブレーンストーミングという。)を使います。
その特徴は、ブレーンストーミングと問題解決の案内とを組み合わせて行います。I-TRIZのオペレータシステムがブレーンストーミングのファシリテータの役割を果たします。
オペレータシステムは、アイディエーション社が提供しているアイディエーション・ブレーンストーミング(IBS:Ideation Braunstorming)またはイノベーション・ワークベンチ(IWB:Innovation WorkBench)というソフトウェアに組み込まれています。
IBSはアイディエーション・ブレーンストーミングを行うために特化したソフトウェアであり、本格的なI-TRIZのソフトウェアであるIWBの簡易版に当たります。IWBでは約500種類のオペレータ(解決のヒント:発明パターン)がありますが、IBSではそのうちの135種類だけが採用しています。
アイディエーション・ブレーンストーミングでは、これらのオペレータを切り替えながら使用していきます。 問題状況を複数の課題に切り分け、課題から解決策の指針を導き出します。その指針がどのオペレータを使うかを示唆します。
これによって、ブレーンストーミングの焦点を変化させながら、参加者を解決策の存在する領域の方角に案内していきます。 解決策の指針は、I-TRIZのソフトウェアであるプロブレムフォーミュレータ(PF:Problem Formulator)を使って、問題状況を機能の連鎖で表現する因果関係モデルを描くことで、自動的に入手することができます。
因果関係モデルは、そのルールを覚えてしまえば手書きでも作成することが可能です。また、解決策の指針もソフトウェアを使う場合よりは時間はかかりますが、手書きの因果関係モデルから自分の力で読み取ることができます。
オペレータには、そのタイトルごとに解説がついており、そのどれもが問題解決の素材となる新しい資源を発見する手がかりになるものです。 オペレータは次のように使います。
1)あなたが取り組んでいる状況にオペレータが推奨する方法を当てはめたらどうなるか考えてみてください。
(2)現在、対象としているシステムについてオペレータの推奨に沿って変化させるとどういうことになるか考えてください。
(3)システム(とその周囲)にあるどんな資源を変化させる必要があるか考えてください。
(4)その資源を変化させる方法を考えてください。
(5)そうした変化を起こさせるうえで移用できる資源がないか探してください。
以上の質問に答えるなかで頭に浮かんだアイデアはどれもが問題解決の手がかりとなるかもしれない貴重な資源です。アイデアは後で更に検討することができるように、必ず記録するようにしてください。
IBSやIWBでは、取り組んでいる状況を改善することに役立ちそうなアイデアが浮かんだらば、その場で浮かんだアイデアが記録できるように、アイデアリストを保存するウインドウを開いて書き込むことができるようになっています。
【参考情報】
現在、IBSとPFを使った実践的な問題解決のセミナーを企画しています。セミナーに参加された方には、IBSとPFのソフトウェアをお渡しするとともにI-TRIZユーザーの認定証を授与するというものです。IWBを使いこなすは難しそうだと思っている方は是非、手軽に使えて短時間で結果を出すことができるツールとして、その採用をご検討ください。

問題解決を考える前にすべきこと

古典的TRIZ(創始者であるアルトシュラーが研究開発していた時代までのTRIZ)で使用される発明的問題解決の手順書であるARIZでは、いきなり具体的な技術問題の状況を詳細に定義することが行われます。
それは、古典的TRIZは技術システム自体が比較的明確なものを対象としていたからです。 しかしながら、多くの技術が成長期から成熟期に移行した現在では、具体的な技術問題に取り組む前に、何をするのか、何のためにするかが重要になってきています。
技術問題には、研究の成果を利用して未だ市場に現れていない製品やサービスを実現する開発が必要なものと、既存の技術を使用してゴールとなる仕様が与えられている製品やサービスを実現する設計で足りるものとがありますが、今の時代は、設計よりも開発、開発よりも研究にその重要性が移ってきているといえます。
主に技術問題を解決するために開発されたTRIZのソフトウェアであるIWB(InnvationWorkBench)では、その思考プロセスの最初に目的・目標を見直す段階があります。 たまにある質問ですが、なぜ目的や目標を見直す必要があるのかという質問を受けることがあります。
質問者の意図は、目的や目標は顧客や上司から与えられるものであるから、変更できるものではないはずだということのようです。これこそ、技術者の思い込みの典型例の一つです。 一方、現在のようにほとんどの技術システムが成長期から成熟期へと移行している時代では、市場では同業他社から提供される製品やサービスが自社のものとほとんど違わない状態(これをコモディティ化という。)が続くため、自社の売り上げが伸びないという現象が起きます。
自社の売り上げを伸ばすには、顧客が求める他社と違う製品やサービスを提供することが必要になります。そのためには、自分は何をすべきかを考え、自分の仕事の意味を問い直すことが必要になるということです。
それは、特定技術の担当技術者であろうと複数の技術を管理統括する立場の管理者であろうと違いはありません。 IWBでは「プロジェクトの目的は思うほど簡単でないかも知れない」といいます。たとえば、車の修理に関連して問題が発生しているとしても、車の本来の目的は「修理される」ことではなく、「人や貨物を輸送する」ことであるから、修理のことだけを考えたアイデアを出したとしても、「人や貨物を輸送する」ことに役立たない(本質的な問題が解決されない)かもしれないということです。
従来のように、目先の問題だけに捉われていると、一つの問題がなくなってもまた別の問題が発生することがあり、結果的に「もぐら叩き」状態が続くことになり兼ねません。 そこで、IWBでは本質的な問題がどこにあるのかを見定めるために、目的・目標の時間的要素、現実性、内部資源などとの関係を勘案することをすすめます。
また、問題が解決されることによって誰が有利になり誰が不利になるか、解決することによって何が変わるのかといった問題の状況の意味を問います。 また、問題を解決する前に「システムのすべては当初から変化していない、あるいは当初より複雑になっていない。しかし、望む結果は得られている、あるいは、有害な結果はなくなっている。」といった理想的な状況を想像することをすすめます。
さらに、問題を解決する前に、システムをどこまで変化させることが許されるか、許容範囲を明らかにすると同時に、システムを変化させる上での制約(変えてはいけない内容とその理由)を明らかにすることを求めます。そして、制限を取り除くことができる状態とはどのような場合かを示すよう求めます。
制限を取り除くと新しい問題が引き起こされるなら、オリジナルの問題を解決するよりむしろこの問題を解決するほうがよいかどうかを考えさせます。 このようにして、解決策の評価基準になる要素を検討している過程で、問題についての理解が根本的に変化することがしばしばあります。
それが、解決策を発見するうえで大いに役立つことがあるのです。

表と裏の系統図

系統図には、表と裏の系統図があります。
人間の願いが叶うことを阻む原因を追求するといった消極的な行為に使用する「原因結果系統図」を裏の系統図といえます。 これに対して、人間の願いを叶えるといった積極的な行為に使用する「目的手段系統図」を表の系統図と考えられます。
つまり、これら2つの系統図は、密接な関係にあります。 たとえば、「目的手段系統図」を作成するテーマは、現状を表す「原因結果系統図」の最上位に位置する結果があるべき姿と異なっているため、あるべき姿と現状との差異を埋めるために設定されます。
また、「目的手段系統図」によって目的達成のための手段を展開していく場合には、「原因結果系統図」の原因を取り除くためにどうするかを考えることで的確な手段が見つかります。「原因結果系統図」と「目的手段系統図」とは裏表の関係にあります。
「目的手段系統図」とは、物事の働きを人間の狙いと達成方法といった観点で眺めた場合の目的と手段との体系図であって、人間が創造する場合の構造をモデル化したものといわれています(「目的発想法」、村上哲大著、都市文化社発行)。
別のいい方をすれば、テーマ(目的)に対するアイデア(手段)の関係を示したものともいえます。つまり、物事には何らかの機能があり、その機能を目的機能と手段機能といった形で表現して、それらの関係を体系図としてまとめられます。
具体的には「~するために~する」といったように、目的機能と手段機能をペアで表現する形で、目的と手段とがつながっています。 そして、1つの目的に対する手段は、必ず2つ以上あるといった階層構造を示しており、上に目的を下に手段を記載するようにすれば、その「目的手段系統図」の頂点にはあるべき姿といった理想が掲げられます。
テーマに対して「どのようにして」または「どうする」という言葉を次々に発すれば、テーマ(目的)が具体化されたアイデア(手段)が創出されます。 テーマから下がっていくと、より具体的個別的なアイデアが現れます。
底辺には見る、話す、聞く、書く、読むといった完全に身についたことや無意識的なこと、あるいはそれ以上説明を必要としない、基本的で日常茶飯事的なことが位置するといいます(「創造性を高めるアイデア発想の技術」、さとう秀徳著、日本実業出版社発行)。

知識だけでは解けない問題を解くには

学校の試験問題は正解が予め決まっていて、知識があれば解けるようになっています。そのため、学校でよい成績を取るには、よく勉強して知識を高めておくことが必要になります。
しかし、社会に出てからぶつかる問題は、学校で勉強した知識では解決できないものであって、そもそも何が正解かがわからないものがほとんどです。また、誰も経験したこともないような個人的な悩み事も、知識だけでは解決できるものではありません。
つまり、社会に出たら、知識だけでは解けない問題を解かなければならない状況がたくさんあるにもかかわらず、私たちはこのような知識だけでは解けない問題を解く方法を学校で教えてもらっていないのです。
そのため、世の中には多くの情報が氾濫しているにもかかわらず、私たちは多くの悩みを抱えているという状況にあります。 知識だけで解けない問題を解くのにどうしたらいいのか。先輩や上司に相談すると、「知恵を出しなさい」と教えてくれます。
そこで、知恵の出し方を教えてもらおうとすると、「自分で体験するしかない」といわれます。 実は、先輩や上司も知恵の出し方を知らないのです。なぜなら、知恵は知識と違って、意識的に自分の頭から引き出せるものではないからです。
知恵とは、無意識な状態でひとりでに出てくるものであって、出そうと思っても出せるものではないのです。 発明を生み出す手法であるNM法を創案された中山正和氏によれば、意識的に出すことのできない知恵がいつ出るかというと、「好きなことをしているとき」か「ピンチになったとき」であるということです。
いずれも「そのことしか考えていない」状態にあることが条件になっています。つまり、知恵が出したかったら、その問題のことだけを考え続けることです。知恵が出ないのは、その問題のことだけを考え続けることができなくなる状況が生じていると考えられます。具体的には、気が散って、問題以外のことを考えている場合があげられます。
最も問題に集中できる環境とは、好きなことでピンチになることといえます。具体的には、「好きなことを仕事にし、明確な目標を設定して、時間的な制限を課す。」といったことが考えられます。
しかし、現実には、好きなこととはいえ、いやな問題を解決しなければならないこともあります。できれば、ピンチになって苦しむ前に問題を解決したいものです。

問題の構造-目的から行動まで-

最近読んだ「どんな問題もシンプルに解決する技術」(車塚元章著、同分館出版株式会社発行)という本で、「問題」と「課題」とは異なる概念である、という意見がありました。
この機会に、問題解決の分野で使われている言葉について私が思うところを述べようと思います。 大辞林によれば、「問題」とは、「①答えさせるための問い。②取り上げて討論・研究してみる必要がある事柄。③取り扱いや処理をせまられている事柄。④世間の関心や注目が集まっているもの。⑤面倒な事件。」のことであり、「課題」とは、「①仕事や勉強の問題や題目。②解決しなければならない問題。」のことである、と記載されています。
そのため、一般には「問題」と「課題」という言葉が同じ意味に使われています。 しかし、問題解決の分野では、これらははっきりと区別して使うべきであると思います。 前述の本の著者である車塚元章先生の他、元朝日大学大学院経営学研究科の教授の江崎通彦先生が同じ意見をお持ちでした。 その昔、江崎通彦先生からお電話をいただいた折、この件について長くお話しをさせていただいたことがありました。
車塚元章、江崎通彦両先生の意見は、「問題とは、あるべき姿(目標)と現状とのギャップをいい、課題とは、問題解決のためにやるべき事柄のことをいう。」というもので、「問題解決はあっても、課題解決ということはない。」、「問題は解決するものであって、課題は実現するものである。」というものです。
ちなみに、発明を特許出願する際に特許庁に提出する特許明細書という書類がありますが、この書類に【課題を解決する手段】という項目があります。 車塚元章、江崎通彦両先生の考え方からすると、この表現はおかしいことになります。
特許明細書では、自分の発明に最も近い先行技術(現在では【背景技術】という欄に記載します。)を記載し、合わせてその欠点を記載します。 そして、先行技術の欠点を解消することが自分の発明の目的であるといい、発明の目的のことを課題と表現します。 「発明の目的」=「課題」ということであれば、発明の目的を解決するとはいいませんから、課題を解決するという表現もないことになります。
しかしながら、前述のとおり特許明細書には【課題を解決する手段】という表現が使われています。 車塚元章先生によれば、問題解決の分野では、①目的→②目標→③現状→④問題→⑤原因→⑥問題点→⑦課題→⑧解決策という構造があるといいます。
問題解決のコンサルを生業としている私には、この構造がすんなりと受け入れることができ、問題解決をする上で自分の立ち位置を見失わないための指針になる考え方であると思っています。 ⑥問題点は根本原因と表現されることがあります。ちなみに、私はこれに⑨行動を付け加えたいと思っています。
問題解決に当たっては、まず目的(ゴール)が明確になっていることが重要で、目標は目的を目指す上での基準であると考えればいいでしょう。 IWBという問題解決のためのソフトウェアの「Ideationプロセス」の最初に、「1.目的・目標」という項目がありますが、これはTRIZと直接関係のない項目でありますが、大変重要な項目であると改めて感じています。
IWBの画面の右側に表示される「1.目的・目標」に関する「提案ウィンドウ」の内容を確認してみてください。大きな発見があるかも知れません。
私は、「やらなくてもいい仕事を一生懸命やることほど、ばからしいことはない。」ということを再認識しました。

簡単にできる問題解決法などない

15年ほど前、日本に「超発明術」と銘打って紹介されたTRIZですが、残念ながら現在の研究開発の現場で広く使われている様子はありません。 当時、創造的な集団思考を推進するための「ブレーンストーミング」という心理学的な手法しか知らなかった研究者や技術者は、「誰でも簡単に発明できる手法が世の中にあるのか?」と、さぞかし驚いたことでしょう。
TRIZは、未だ誰も解いたことのない矛盾を含む技術的問題(これを、発明的問題という。)を解くために開発された理論と方法論ですので、発明を生み出すための手法であるという表現自体は間違いではありません。
発明家エジソンが「創造とは1%のインスピレーション(ひらめき)と99%のパースピレーション(汗をかくこと)である」といったように、創造の元になる革新的なアイデアを発想することと、そのアイデアを実現するための具体化の作業のいずれもが重要で大変な労力を要するものであることは、研究開発に従事する者であれば骨身に沁みて感じていることです。
それゆえ、受け取る側が勝手に「誰でも簡単にできる」方法を期待してしまったことが、そもそもの問題だったように思います。 TRIZは、発明的問題を解くために、あれやこれやと繰り返し考え続けるための方法論を提供するものです。
したがって、TRIZの方法論の訓練を続けることで、繰り返し考え続ける習慣が身につき、結果的に発明的問題を解決することができるようになる、というのが正しい理解でしょう。 こう考えると、日本の研究開発の一部の現場で、単に「40の発明原理」(技術的矛盾の解を得るためのヒント)だけで発明的問題を解こうとしている試みは、TRIZの本来の考え方から逸脱しているように思えます。
その結果、「TRIZは役に立たない」といった誤解が生まれ、研究開発の現場でTRIZが使われていないという状況を生み出しているのではないでしょうか。 TRIZを創案したアルトシュラーは、その晩年に「発明原理」とそれを使うための「矛盾表」は古びたものとみなしていたといわれています。
TRIZを研究開発の現場で活用するには、韓国で行われているように、TRIZを使って繰り返し考え続ける訓練が必要なのではないでしょうか。

作図法それ自体が思考のスタイルを決める

複数の構成要素を特徴的な性質毎にグルーピングして、グルーピングされた個々のグループにその性質の名称をつけることがよく行われます。 この場合、個々の構成要素が下位概念を表し、グループの名称が上位概念を表すことになりますが、この関係は何段階か存在し、概念の階層構造を表現することができます。
概念の階層関係は、数学の集合を表す概念図のように、個別の概念のグループ毎に別々の枠取り線で囲うことで表せます。 構成要素同士を矢印のない線でつなぐことで、構成要素同士の階層関係を表すこともできます。
構成要素同士を矢印のない線でつないだものを構成系統図といい、機械などの組立品と部品との関係を表す場合に使用されます。構成要素を機能に変更すると、上位概念の機能と下位概念の機能との関係を表す機能系統図が完成します。
階層は一段階とは限らず、何段階かの階層が存在することが一般的ですが、接続線は直接的な階層関係だけを表し、離れた階層上の構成要素同士を線でつなぐことはありません。以上のような、作図法はものごとを分類整理するときに行われる方法であって、特定の構成要素をより大きな構成要素の一部として位置づけることで説明しようとする思考法に関係します。
それは、単純で静的な関係を表す場合に使用されます。構成要素がある事象を表す場合には、特定の事象の原因となる要因を明らかにするために、特定の要因から特定の事象に向かう矢印のついた線でつなぐことがあります。
この作図法は、事象同士の因果関係を明らかにする場合に使用されます。 特定の事象に対してその直接の要因が複数ある場合に、複数の要因を列挙してそれらの因果関係を網羅的に検討しようとする思考法に関係します。
特定の事象とその直接の要因との関係だけを検討対象にする場合は、単純な静的な関係として捉えることもできます。しかしながら、実際の事象は直接的な因果関係の連鎖として生じるため、間接的な因果関係(縁報関係)にも思いを巡らさなければなりません。
因果関係を表す作図法によれば、矢印のある接続線を辿ることで、離れた事象同士の関係も知ることができますので、複雑な動的な関係を分析する場合にむいています。

因果関係ダイヤグラム

アイディエーション・インターナショナル社が開発したIdeation TRIZ(以下、I-TRIZという。)では、イノベーション・ワークベンチ(IWB:Innovation WorkBench)およびプロブレム・フォーミュレータ(PF:Problem Formulator)というソフトウェアを使用して「原因結果ダイヤグラム」を作成することで、問題の状況を明らかにします。
I-TRIZで使用する「原因結果ダイヤグラム」は、問題状況を原因と結果の関係で結ばれた機能連鎖型ダイヤグラムで図式化します。 「原因結果ダイヤグラム」を使うと、システムの機能要素と、問題を発生させているメカニズムが図式モデルで理解することができます。
以下、アイディエーション・インターナショナル社の「原因結果ダイヤグラム」の作成方法について説明します。 まず、問題となっているシステムに関連する有益機能と有害機能を明らかにします。ここでいう機能とは、本来の機能だけではなく、働き、作用、プロセス、操作、状態を含みます。
システムに関連するすべての機能を、有益機能(緑色のボックス:四角の中に機能の内容を記入したボックス)と有害機能(赤色のボックス:角丸の四角の中に機能の内容を記入したボックス)とに分類します。
次に、有益機能のボックス(緑色)と有害機能のボックス(赤色)の1つひとつについて、次のように自問して答えを考えてください。
(1)その機能は他の機能を引き起こす/強化するか?
(2)その機能は他の機能を排除する/妨害するか?
(3)その機能は他の機能によって引き起される/強化されるか?
(4)その機能は他の機能によって排除される/妨害されるか?
そして、その答えに応じて新たな有害機能のボックスまたは有益機能のボックスを追加して問題状況の図式モデルを完成させていきます。 ボックスは2種類使用します。 緑色の四隅に四角い角があるボックスには、有益な機能、作用、状態を記載します。構成要素、条件、特性などを記載することもできます。
赤色の四隅に丸みがあるボックスには、有害な機能、作用、状態を記載します。 ボックスとボックスとを繋ぐ片矢印は2種類使用します。 一般的な片矢印は、「引き起こす、強化する」ことを表します。
矢印の根本側のボックスが原因を表し、矢印の先端側のボックスが結果を表します。 矢印の棒状部に直角方向の短い棒を付したものは、「妨害する、阻止する」ことを表します。 一般的な対立矛盾とは、ある有益機能が1つの有益機能を引き起こすと同時に1つの有害機能を引き起こしている場合であって、一つの有益機能のボックスから、別の一つの有益機能のボックスと、一つの有害機能のボックスとに矢印が接続された図が描かれます。

系統図から連鎖図へ

QC(Quality Control)活動で使われている特性要因図は、1つの問題の特性について因果関係をたどっていき、最終的には、いわゆる「魚の骨」の大骨、小骨ように多数の原因に枝分かれした図を作成し、不具合を生じているのはどこに原因があるのか、細部に分けて調べ、悪い部分を改善する、といった場合に使用します。
特性要因図に似たものに、原因結果系統図があります。 原因結果系統図では、原因を上に、結果を下に書くというルールで物事の原因と結果との関係を体系化した図です。「なぜ」という質問を繰り返すことで、問題を生じている根本原因を発見することを目的として使用されます。
人間の願いを叶えるといった前向きな思考をするときに、目的手段系統図を使います。 目的手段系統図とは、物事の働きを人間の狙いと達成方法といった観点で眺めた場合の目的と手段との体系図であって、テーマ(目的)に対するアイデア(手段)の関係を示したものです。
「~するために~する」といったように、目的の機能と手段の機能をペアで表現する形で、目的と手段とを繋いでいきます。 目的手段系統図に似たものに、価値工学(VE:Value Engineering)で使用される機能系統図があります。
機能系統図は、目的とする機能とその機能を実現するための手段とする機能との関係を表しているため、目的手段系統図の目的と手段を機能的な表現で記載した場合には、実質的に同じものとなります。
企画構想の段階では目的手段系統図でコンセプトが明確になりますが、そのコンセプトに沿った具体的な製品や方法を考えるには、機能を構成(構造・手順)に変換する必要があります。 器具や装置の場合の構造や、製造方法や測定方法の場合の工程や手順を含む概念を構成といいますが、その構成要素同士の関係を明らかにするために使用するものを構成系統図といいます。
特性要因図、原因結果系統図、目的手段系統図、機能系統図、構成系統図は、原因、結果、目的、手段、機能、構成といった作図の構成要素同士を矢印のない線でつなぎ、それぞれの構成要素同士の上位、下位、同位関係を系統別に整理した図式になっています。
系統図の場合には、特定の構成要素はすぐ上の構成要素またはすぐ下の構成要素と矢印のない線で接続されているだけですので、単に、ある事象の原因(条件)として複数のものが考えられることを表しているだけです。 系統図でわかることは、特定の構成要素にはいろいろな原因(条件)が関係ありそうだということを表しているに過ぎません。
そして、別の系統に含まれる構成要素同士に関係があるのかないのかがまったくわかりません。 したがって、特性要因図、原因結果系統図、目的手段系統図、機能系統図、構成系統図などの系統図を使った問題解決の場合には、影響の大きな要因を見つけたらその大きな要因からつぶしていくというアプローチになり、鍵を握っているような小さな要因には手が着かないか、もしくは見過ごされてしまう場合があります。
結果として、系統図を使った問題解決の結果は程々となり、新たな問題が再発することがあり得ます(こちらを処理したら、次にあちらを処理するといった、モグラ叩き状態になる)。 モグラ叩き状態から抜け出すには、系統図ではなくて連鎖図を使用することが必要になります。 連鎖図とは構成要素同士を矢印のある線で結んだものですが、次回以降でその内容を詳しく説明していきます。